誰かに伝えることのない言葉。
【心斎橋アセンス】 磯上竜也

このエントリーをはてなブックマークに追加
2017-08-26 19:06:00

忙しさにかまけている間にも時間はずっと流れていて、更新しないまま3ヶ月以上が過ぎてしまった。

その間にも色々なことがあったり、素晴らしい本にもたくさん出会えたので、少しずつこの遅れのようなものを取り戻してゆけたらと思う。

 

今日は、長嶋有の最新作『もう生まれたくない』の感想を少し書いていくことにする。

物語はとある大学に勤める首藤春菜の小さな想像から始まる。

そこから、同僚や、非常勤講師、清掃員や学生など登場人物を増やしながら、彼らと彼らを取り巻く確かな日常が四つの時間に分けられて丁寧に描かれていく。

そこへ有名人や登場人物の訃報が契機となってこぼれだす思考と感情が、緻密に織り込まれることでこの小説はできている。

描かれる悼み方は定形ではなく、それぞれがただ頭に浮かんだり、考えたりすること。その中には不謹慎や不遜だと言われることだってあったりする。

でもこういうものだよな、と思う。誰かが死んだとき、誰もが一様に悲しいわけなんかないのだ。勿論それは、悲しくないということともまた違う。

皆が色んな見方や仕方で死と向き合ったり、背を向けたりする。そこに清濁なんてことは意味がないのだ。

 

最後の数ページを読んだときに、この物語を通して考えたことは読み手にそっと差し返されるようだ。

誰かが死ぬこと、自分が死ぬこと、そしてそれらを思いながら生きていくこと。

生きている限り、出会うだろうたくさんのことを思う。

胸の底が少しあたたかく感じる。

きっとこの小説は、誰かに伝えることのない言葉をもっているたくさんの人に届くだろう。

そう思えるこの小説を、読めて良かった。

 

 

 

長嶋有の作品はどれもおすすめだけれど、この作品を読んで次を。となった方に少しの指針になればと思うので何作かおすすめを書いていく。

 

まずは『問のない答え』

何をしていましたか?

 

ツイッターに投げられた質問に思い思いの答えを返す人たち。問いの全文が知らされるのは答えが出揃ってから-。

小説家のネムオが震災後に始めたそんなことば遊びが、さまざまな場所にいるさまざまな男女の人生を丸くつないでゆく。

ただ一つの答えが決まっていない、決めていない世界をそっと肯定してくれるような大きさをもった小説。

 

 

お次は『愛のようだ』

最初で最後の「泣ける」恋愛小説。と銘打たれたこの小説は、40歳にして免許を取得した戸倉を中心に語られていく。

車中で交わすとりとめのないおしゃべり、流れる景色、ひととき同じ目的地があるということ。

80~90年代のマンガやポップスが物語を彩りながら、ある種のベタな題材をここまで巧みに自らの作品として作り上げるその手際に惚れ惚れ。

勿論最後は、本当に泣いてしまった。

 

 

最後は『観なかった映画』

マニアックな語りから遠く離れて、映画にしかできないことに注目することで多くの映画評とは一線を画した長嶋有&ブルボン小林(初共著)、初の映画評論集。

彼らの鋭い着眼点は、映画を観ることの本質的な楽しさを伝えてくれているように思う。

堀道広による絵も素晴らしいのも魅力だ。

 

 

どの作品か、気になったものがあれば是非読んで欲しい。

きっと、長嶋有の紡ぐことばがあなたの心に届くだろうから。

このエントリーをはてなブックマークに追加

【心斎橋アセンス】磯上竜也


大阪にある本屋、心斎橋アセンスで働く書店員。 本と日々のことを、ぽつぽつと書いてゆきます。 http://www.athens.co.jp/

磯上竜也さんの他の記事を読む



スポンサーリンク

others

【誠光社】 堀部 篤史

【古書ドリス】 喜多義治

【July Books/七月書房】 宮重 倫子

【CafeT.M. en】 城戸 実地

【曙光堂書店】 長坂 ひかる

【大吉堂】 戸井 律郎

【スロウな本屋】 小倉 みゆき

【トロル】 関本

【まめ書房 】 金澤 伸昭

【古本と珈琲 モジカ】 西村 優作

【喫茶ジジ】 四宮 真澄

【パンヲカタル 】 浅香 正和

【つむぎ】 田川 恵子

【古本屋ワールドエンズガーデン 】 小沢 悠介

【読読】 なかがわ

【POTEN PRODUCTS】 森田ヨシタカ

 絵描き kaoru

【書肆スウィートヒアアフター】 宮崎 勝歓

【Satellite】 桑田 奈美枝

 若輩者

【homehome】 うめのたかし

【四々三結社】 蜆不水

 みやした けい

【町家古本はんのき】 仮

 葵美澄

【Amleteron】 アマヤ フミヨ

【ひるねこBOOKS】 小張 隆

【古書サンカクヤマ】 粟生田 由布子

【 nashinoki 】 前田 雅彦

【天牛書店】 天牛 美矢子

【葉ね文庫】 池上 規公子

 佐藤 司

【サロン ことたりぬ】 胡乱な人

 わ田かまり

 根本 郁

【編集者・ライター】 石川 歩

 【文章スタイリスト】 武田 みはる

 クボタ カナ

【イラストレーター】 福岡麻利子

 美夏

【立命館大学】 立命PENクラブ

 たまの

 Kyoto Swimming Girl Magazine

 Takahiro Sawamura

 保田穂

【詩人】 素潜り旬

【個人】 前田ヨウイチ

 夏美

 たかぎ

 おとなの絵本プロジェクト

 かづさ

 まみ