心の中で、静かにこだまする言葉。
【心斎橋アセンス】 磯上竜也

このエントリーをはてなブックマークに追加
2018-01-14 16:03:51

 

一年前に、発売前の『夫のちんぽが入らない』についての文章を書いた。

あの時はまだ知っている人も少なかったこだまさんの文章がひとりでも多くの人に届けばいいと思っていた。

そんな心配なんてする必要がなかったみたいに、発売されてからは瞬く間に世間の話題をさらい、たくさんのメディアに取り上げられ多くの人が手に取っている様子を目の当たりにした。それからひと月ぐらいずっと嬉しさやら戸惑いやら何だかわからないもので僕の胸はいっぱいになっていた。

 

あれから一年、「おとちん」の出版前から始まっていた連載「Orphans」で書き継いできた短編がもうすぐ一冊の本として出版される。待ち望んでいた2冊目の単行本だ。

ひとつひとつが短くまとまっていながらも印象的なエピソードから編まれているだけあって、どれもひきが強い文章が目に飛び込んでくる。

 

スーパーの鮮魚コーナーを物色していた父が、一匹八十円と書かれた蟹を見て「虫より安いじゃねえか」と呟いた。

 私はヤンキーと百姓が九割を占める集落で生まれ育った。

いらないものばかり付いている身体だった。 

「移植した骨が消えちゃってます」

出だしだけでも穏便には済まないような出だしばかりだ。前作に続きこの本の中でも、こだまさんの日々は災難に揺れ動かされているのだ。

実家は何度も空き巣に入られ、訪問販売の餌食にあい、引越し業者でさえ鼻を押さえる「臭すぎる新居」にめぐりあい、腰骨を削ってまで移植した骨は消えてしまう…。

途方に暮れてしまいそうな出来事の連続で日常ができてしまっているのかもしれないと疑ってしまうほどに、エピソードは尽きることなく書かれていく。

そんな環境に右往左往しながらも決して屈することのない熱量は変わらず、言葉の中に流れている。ままならない現実は相変わらずなくなりはしないけれど、それらひとつひとつを丁寧に手に取り、ユーモアを忘れることなく言葉に置き換えられていくことで、可笑しく愛おしいものに昇華されているのだ。

こだまさんはこの短編たちを書きながら、自分自身との向き合い方を苦悩の日々の果てに探し当てたのではないか。きっとそうだといい。紡がれた言葉の先にこだまさんにとっての光があるのだと願いたい。

 

こだまさんの文章が再び本の形にまとまったことが本当に嬉しい。

「おしまいの地」で書かれたこの真摯でユーモラスな作家の言葉が、心の中で反響しながら新たな読者に寄り添うことを願いながらこの文章をおしまいにしようと思う。

このエントリーをはてなブックマークに追加

【心斎橋アセンス】磯上竜也


大阪にある本屋、心斎橋アセンスで働く書店員。 本と日々のことを、ぽつぽつと書いてゆきます。 http://www.athens.co.jp/

磯上竜也さんの他の記事を読む



スポンサーリンク

others

【誠光社】 堀部 篤史

【古書ドリス】 喜多義治

【July Books/七月書房】 宮重 倫子

【CafeT.M. en】 城戸 実地

【曙光堂書店】 長坂 ひかる

【大吉堂】 戸井 律郎

【スロウな本屋】 小倉 みゆき

【トロル】 関本

【まめ書房 】 金澤 伸昭

【古本と珈琲 モジカ】 西村 優作

【喫茶ジジ】 四宮 真澄

【パンヲカタル 】 浅香 正和

【つむぎ】 田川 恵子

【古本屋ワールドエンズガーデン 】 小沢 悠介

【読読】 なかがわ

【POTEN PRODUCTS】 森田ヨシタカ

 絵描き kaoru

【書肆スウィートヒアアフター】 宮崎 勝歓

【Satellite】 桑田 奈美枝

 若輩者

【homehome】 うめのたかし

【四々三結社】 蜆不水

 みやした けい

【町家古本はんのき】 仮

 葵美澄

【Amleteron】 アマヤ フミヨ

【ひるねこBOOKS】 小張 隆

【古書サンカクヤマ】 粟生田 由布子

【 nashinoki 】 前田 雅彦

【天牛書店】 天牛 美矢子

【葉ね文庫】 池上 規公子

 佐藤 司

【サロン ことたりぬ】 胡乱な人

 加間衣記 kama iki

 郁

【編集者・ライター】 石川 歩

 【文章スタイリスト】 武田 みはる

 クボタ カナ

【イラストレーター】 福岡麻利子

 美夏

【立命館大学】 立命PENクラブ

 たまの

 Kyoto Swimming Girl Magazine

 Takahiro Sawamura

 保田穂

【詩人】 素潜り旬

【個人】 前田ヨウイチ

 夏美

 たかぎ

 おとなの絵本プロジェクト

 かづさ

 まみ