お願いだから、2つで1つの
ものは同時に落として。

藤野 可織さん

Photo : Takuya Shiraishi   

お家でもたくさんの植物を育てられ、「そこらへんの住宅の軒先で適当なことになっている植物の鉢を見るのがとても好き」という藤野さん。それなら、散歩がてら「適当なことになっている植物」を見て回りましょうかということになり、今回は藤野さんが生まれ育った京都の今出川~丸太町界隈を歩いて回りました。

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藤野 可織

1980年、京都生まれ。同志社大学文学部卒、同大学院文学研究科美学及び芸術学専攻博士前期課程修了。2006年、「いやしい鳥」で第103回文學界新人賞受賞。2013年、『爪と目』で第149回芥川賞を受賞。その他の著書に、『パトロネ』『ファイナルガール』『おはなしして子ちゃん』『[現代版]絵本 御伽草子 木幡狐』(絵・水沢そら)などの著作を発表。近著に、『アイアムアヒーロー THE NOVEL』(共著)、また『文学ムック たべるのがおそい vol.1』、文學界8月号、文藝秋号でそれぞれ短篇小説を発表。

待ち合わせ場所は地下鉄今出川駅。上がってすぐの交差点の角にあるコンビ二で待っていると、満面の笑みを浮かべ、大きく手を振りながら藤野さんが現れた。 3月上旬に「ものすごく大したことのない病気」(藤野さん談)で少し入院されていたこともあり、当初の予定より取材日が後ろにずれ込み、撮影は3月30日に実施。当日は「5月の陽気」と天気予報のおじさんが言ってたくらいの暖かな、気持ちのいい日でした。

第1回地下鉄烏丸線「今出川」駅から
散歩がスタート。

藤野今出川界隈は30年近く住んでて、この辺りは庭も同然なんですよ。

――大した打ち合わせもせず、藤野さんの申し出にのっかって散歩企画がスタートしましたが、誘導よろしくお願いします。一応目的というか、ゴールの想定はあったりするのでしょうか?

藤野実は丸太町駅近郊の病院に入院してたんですけど、すぐに元気になって、入院中けっこう散歩してたんですよ。そのときに、軒先の鉢植えのなかに造花が盛られているのを発見して、それとの再会を一応の目的にしています。

――ぜひ実現させましょう。

藤野ただ、明確な場所を覚えていないので、なんとなくの感覚で歩いてみます。

――お願いします。

藤野あ、こういうの好きなんですよ。

藤野 可織さん

藤野 可織さん
――曇りガラスの向こうに植物が見えますね。

藤野窓とかに植物が押しつけられている状態が大好きなんです。これは飛び出すほどの勢いがありませんが、でも好きな感じです。

――ちなみに、軒先にあるこういうのはどうですか?
藤野 可織さん

藤野嫌いではないですけど、ちょっときれいすぎるかも。適当なことになってるやつが好きなんですよ。

――きれいに整えられてるのは、あんまり心に響かない。

藤野そう、ちょっと違う(笑)。ほったらかされてるなあ、みたいなやつが好みです。

――ぼうぼうに伸び放題になってるやつとか。

藤野はい。あとは枯れてるやつとか、ちょっと気持ちの悪いやつとか…。

――そういえば、藤野さんのインスタグラムに、植物を枯らしたって内容の投稿もありましたよね。

藤野もちろん、意図的に枯らしたりはしませんよ(笑)。うちの子には元気に生きていってほしいんですけど、なぜか枯れていくんですよね。

松葉杖のお兄さんから
アポロをもらう

――ちなみに、この通りはなんていう名前なんですか?

藤野武者小路通ですね。小学校の通学路だったんですよ。この辺は、すごく久しぶりに来ました。

――思い出の場所とかあったりします?

藤野小学生のとき、ちょうどここで、松葉杖をついたお兄さんにアポロ(ピンクのチョコレート)をもらったんですよ。

――へえ。
藤野 可織さん

小学生の藤野さんが松葉杖のお兄さんからアポロをもらった付近

藤野それで、なんとなくうれしかったんですけど、お兄さんが行った後で友だちに「こんなんもらっても食べたらアカン」と注意され、友だちに捨てられました。

――そうなんですね(笑)。しかし、そのお兄さんは何でまた。

藤野わかんなですけど、「買っちゃったんやけど、いらんし、食べて」って。

――なるほど。それで、よしよしと思ったら。

藤野はい。ありがとうございます、って受け取ったんですけど、友だちに捨てなアカンって言われて。

――そこは抗わなかったんですね。

藤野けっこう言われたらなんでも「そうか」って思うタイプなんで(笑)。

――素直なんですね(笑)。

藤野はい。あげるって言われたら喜んで受け取るし、ダメやでと言われるとすぐに捨てる(笑)。

藤野 可織さん

スポーツ選手は絶頂期の
バリバリの人が好き

――枯れた植物が好きということですけど、そういう意味では咲き誇るサクラとかは藤野さんの美学に反するんですか?

藤野そんなことはないですよ。でも、ずっと引きこもってるので、長いこと花見とかも行ってないですね。

――ちなみに、枯れたのが好きっていうのは、儚さとか、そういう背後の物語性みたいなものも影響してたりするんですか?

藤野うーん、なんか枯れてる方がきれいだなと思ってしまうんですよ。

――あ、単純に審美的な問題なんですね。

藤野そうです、そうです。

――例えば、枯れの美学というか、絶頂期のスポーツ選手ではなく、引退前のベテラン選手を応援するとか、そういうのんではないんですね?

藤野それはむしろ絶頂期で、バリバリ勝ってる人が好きです(笑)。…でもまあ、勝ってない人も好きです。

――スポーツは何が好きなんですか。

藤野フィギアスケート一択です。今は宮原知子選手が超好きなんですよ。たぶん、家も近所だし。

――そうなんですか。

藤野たぶんですけど。わかんないですけど(笑)。目撃情報がいくつかあるので。

――なるほど。ちなみに、ここを通るのは久しぶりということですが、当時と趣は変わっていたりしますか?

藤野そうですね。このカラタチは私の小さい頃からずっとありました。ここに蝶々の芋虫がいっぱいつくんですよ。

藤野 可織さん

芋虫がいっぱいつくというカラタチ

カラタチの前の道をまっすぐ行って、角を曲がって、直進して、また曲がってというのをしばらく繰り返す。

藤野とりあえず入院していた病院の裏辺りに行きたいんですけど、いま私、早くも方向がわからなくなっています。

――あ、そうなんですね。スマホで現在地確認してみましょうか。

藤野いま南に向かってます?

――こっちが南やと思うんですけど、あってますよね?(と、カメラマンさんに尋ねる)

カメラマンさんあってますよ。

藤野地元やのに迷ってしまうから…。

カメラマンさん安心してください、光がこっち向いてますから(と、太陽の角度から南を導き出すカメラマンさん)。

藤野なるほど!

――さすが、光を操る仕事をしておられますね。

藤野ほんまですね。あ、サクラが咲いてる。なんか今日の格好が春らしい感じじゃなくてすみません。

藤野 可織さん

咲き誇るサクラ

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