第8回大好きな青年漫画
「造花が刺さったファンシーな鉢」を訪ねる散歩はひとまず終わり、カフェに入って一休み。話題は4月12日に刊行されたアンソロジー小説集『アイアムアヒーロー THE NOVEL』に。これは花沢健吾さんが描く、累計600万部大人気コミックス『アイアムアヒーロー』の映画化を記念し企画されたもので、藤野さんも寄稿。内容は、「陸上部に所属する女子中学生たちに迫り来る恐怖」といった感じのお話になっているという。
――どういった経緯で『アイアムヒーロー』のノベライズのお話が来たんですか?
藤野ゾンビが好きなんですけど、どこからか私のゾンビ好きが漏れて、お話をいただけたのかもしれません。
――取材時のいまは発売前ですが、中身も楽しみにしています。
藤野特別原作に内容を寄せているって感じでもなくて、ゾンビは出てくるんですけど、全体的にはいつもの私の小説の感じになっているはずです。
――マンガもよく読まれるんですか?
藤野ちょっとですけど、読んでます。『アイアムアヒーロー』は以前から読んでました。やっぱりなぜかホラーっぽい漫画が好きで、体の一部が伊藤潤二や楳図かずおで出来ている自覚があります。それと、ホラーとは言えないと思うんですけど、私は松本次郎さんがすごく好きなんですよ。特に『女子攻兵』は超好きで、最高でした!! ラストとか思い出したら泣いちゃう。
――そういった青年誌のマンガ情報はどういうところから得られてるんですか?
藤野連載は読んでなくて、単行本になって書店さんに並んでるのを見て知る、といった感じですね。松本次郎さんはどこで知ったんやったかな…。確か、『フリージア』からだと思うんですけどね。『フリージア』がすごくいいと思ったんで、そこから過去の作品も読み出して、大ファンになりました。
――今のお気に入りのマンガはなんですか?
藤野現在進行形で買っているマンガは、『アイアムアヒーロー』と、『女子攻兵』は終わっちゃったんでもう買えなくてさみしい。あとは『血まみれスケバンチェーンソー』(三家本礼)を買ってます。好きです。
――それも今度、映画化されるやつですね。
藤野そうらしいですね。あとは続巻がなかなか出ない『ヒストリエ』(岩明均)。
――あ、『寄生獣』描かれた方の作品ですよね。僕のマンガ好きの友だちにも「いま一番面白い」っておすすめされました。
藤野そうなんですよ、すごく面白いです。だけど、単行本が2年に1回くらいしか出てないような気がする。早く続きが読みたいです。
一度書いてみたかった
「恋愛小説集」
――宴もたけなわになってきたので発表しますが、少し前にサイトオリジナルの猫栞をつくったんですよ。よかったら、もらってやってください。
藤野わー、かわいい。ありがとうございます! ちゃんと本の上に乗ってくれるんですね。
――そうなんですよ。6匹とも同じ方の飼い猫で、その方が撮影もしてくださったんですけど、いい感じに撮っていただけた感じで。
藤野しかも、みんなポーズとっててかわいいですね。猫いいですねえ。猫飼いたい。
――そういえば、エア猫を飼われてるんですよね。
藤野あっ、そうなんです。いいですよ、エア猫。おすすめですよ。飼おうと思った瞬間から飼えます。
――本物の猫ちゃんは飼わないんですね。
藤野夫の反対にあって飼えないんですよ。家でずっとごろごろしてるので、猫を飼うことで、ますます仕事をしなくなるんじゃないか、とか言われて。それと、猫アレルギーはないんですけど、ちょっと強めのダニ・埃アレルギーがあって、友だちの家で犬や猫に触らせてもらうと、くしゃみが止まらなくなったり手が水疱瘡みたいになったりすることもあるので。
――なるほど。
藤野はい。それでエア猫を飼っているわけです。
――ちなみに、いつから飼ってるんですか?
藤野えーと。エア猫は長いですよ。
――もう前の家から?
藤野はい、前の家から。引っ越しもついてきました。
――あ、しまったことをしてしまった。
藤野どうしたんですか?
――散歩がてら、植物を背景に藤野さんの著書を撮影して、いい感じに掲載してやろうと企んでいたんですけど、そのことをすっかり忘れていました。ロケも終わり、こうして談笑風にカフェでお茶しているときになって思い出しました。
カメラマン店内で撮りましょうか。
――そうですね。お願いします。
藤野さんの著書を撮影・その1『いやしい鳥』
藤野さんの著書を撮影・その2『爪と目』
藤野さんの著書を撮影・その3『パトロネ』
藤野さんの著書を撮影・その4『おはなしして子ちゃん』
――せっかくなんで、藤野さんが本を持ったバージョンも撮影しておきましょうか。
藤野じゃあ、『ファイナルガール』にしときます。この装幀の写真は私がずっと前から好きで、いつかこんな装幀の本を出せたらいいなあと思ってたものなんです。
『ファイナルガール』と藤野さん
藤野マルティン・クリマスというドイツの写真家の、陶器の人形が落下して壊れる瞬間をハイスピードカメラで捉えたシリーズのうちの一枚です。この写真家さんには他にもいろんなシリーズがあって、半透明の板の上に絵具をたらしといて音の振動で跳ね上がったところを撮るとか、フリーズドライした花を弾丸で撃ち抜いた瞬間とか、「時間」をことさらに意識した作品をつくったはって、とても好きなんですよ。なかでも一番お気に入りの写真を選ばせてもらいました。
――承諾もうまい具合に取れたんですね。
藤野そうなんです。担当者の方が、ドイツまでメールしてくださって。
――確かに、素敵なというか、印象的な写真ですね。
藤野あと、帯にすごく小っちゃく「恋愛小説集」ってあるんですけど、わかります? 以前から恋愛小説集というのを出してみたいとなんとなく思ってて。
――ほんとだ。「芥川賞作家が贈る恋愛小説集」ってありますね。
藤野さんが指差す先には「芥川賞作家が贈る恋愛小説集」の文字
藤野単行本の収録作品のほとんどが「en-taxi」っていう雑誌で発表したものなんですけど、依頼をいただいたときに、「デビューしたときから、将来恋愛小説集を出したいと思っていたので、これからen-taxiさんでは、恋愛小説を書かせてもらいます」と張り切ってメールに書いたんです。ただ、お返事では「恋愛小説」の部分は完全スルーでした。
――意図的にスルーされたんですかね(笑)。
藤野私も性懲りもなく、「今回も恋愛小説を書きました」って、毎回送るたびに書き添えたんですけど、そのことに関しては完全スルーが続いて、もうアカンねやって思ってました。私の小説は恋愛小説ちゃうんやな、と。そしたら、本が出来上がったときに、横帯にちょこんと入ってて、「私のアピールちゃんと読んではってんや」と思いました(笑)。
――よかったですね(笑)。
藤野でも、もっと大きく書いてくれないと目立たないよねと、思ったりもして(笑)。
――下世話な話ですが、「恋愛」を前面に出した方が、もっと売れたかもしれないですね。
藤野そうかもしれない。でもこの程度で恋愛を標榜するのはおこがましい、と思わはったのかもですね。そうそう、この本、諸事情でいくつか誤植があって、修正したいんですけど増刷の機会じゃないとできない。もうすでにどこを修正するか、付箋を貼って待ち構えてるんです。誤植のあるものをおすすめして申し訳ないんですが、初版がわっと売れると直せるので、ある日突然わっと売れないかなあとしつこく夢見ています。
――読者のみなさん、『ファイナルガール』をよろしくお願いします。
藤野お願いします。
――もちろん、他の本もお願いします。って、最後になんか胡散くさいセールスマンみたいになりましたが、今日は一日ありがとうございました。
道中、ワンちゃんには何度か遭遇しましたが、けっきょく猫には会えませんでした