文芸書を中心に、全国紙の書評欄を読んでぴんときた記事を紹介!
先月発表された芥川賞をうけて、受賞作『しんせかい』の書評が出揃った(読売12/12、朝日1/15、産経2/5、日経2/12)。
いずれも「倉本聰」「富良野塾」の惹句を連ねながら、それら固有名詞を意図的に排した、私小説とは似て非なる作品だという点を強調している。実在団体の内幕や、人間関係の葛藤についての描写を期待する読者へ予防線を張ったようにも読めた。
きっと「ビリケンさん」も「ジャンジャン横丁」も登場しないであろうこと、念のためここで牽制しておく。
「顔がいいわけではないし歌唱力も微妙なのになぜ人気者?」と、時の人・星野源へ辛辣な言葉をおくったのが速水健朗(朝日1/29)。ブレイク以前に出版されたエッセイ集『そして生活はつづく』を紐解き、魅力を分析する。
不細工で没個性だと言われ続けてきた、という自己卑下もかれならば嫌みでない、と断じるところで笑ってしまった。
毎日2/5には、短編集『不時着する流星たち』を上梓した小川洋子が登場。収録された10編の小説は、それぞれ作中に、執筆のきっかけとなった人や物の名前がそれとなく示してあるという。それらを宝さがしのように集めながら物語を読み進める楽しみができた。
著者顔写真の襟についたワンポイントのブローチが素敵。
ほか『コンピュータが小説を書く日』(読売1/30 朝井リョウ)、『カラスの教科書』(朝日2/5 武田砂鉄)、『エラリー・クイーン 推理の芸術』(日経2/5 法月綸太郎)をおもしろく読んだ。また『ユリシーズ 1-12』を評した円城塔の言葉には胸が熱くなった(朝日2/5)。
そして今回のハイライトは『北斎原寸美術館』を語った、横尾忠則(朝日2/5)。北斎による死からのメッセージを受け取った評者が、独自の鑑賞術を開陳する。
大凧に乗って、あるいはアストラル体(霊体)になって風景画と対峙することで、われわれは驚異の浮遊感覚と、見えざるものを見る透視能力を得るという。一度も読み返さずに文意を理解した読者は、横尾検定1級合格。紙面には、かすかに原色の光背が射すようにも思え、くらくらと目まいをおぼえた。