つぶやかなければよかったのに日記6
 クボタ カナ

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2017-02-17 23:01:26

1月○日

2017年最初の読書はジョセフィン・テイ「時の娘」。薔薇戦争むずかしすぎる。家系図、おんなじ名前が多すぎる。さっぱりわからん。なんどもなんども見ながら読んだ。これを読んだら、シェイクスピアのリチャード三世は知らないままでいたくなるな。「われらの良きリチャード王」のままにしておきたい。このミステリのおもしろさは、丸谷才一の「忠臣蔵とは何か」のそれに通じる。あれは評論なんやけれども、どの史料(証拠)を採用しそれをどういう見立てのもとに解釈し論理的に説明していくか、というのがわくわくするほどおもしろくて、それはつまりミステリのおもしろさそのものである。夜、ジョン・ディクスン・カー「火刑法廷」読了。ミステリを超えたホラー、オカルト的こわおもしろさ、鮮やかな解決なんやけれども、やっぱり、そこ…無理ない?むーん。もうカーは読まない。いや、また何回も「無理ない?」って言いながら他の読みそう。

 

 

1月□日

正月の残りのちょっとええハムと玉子と葱たっぷり炒飯と里芋の味噌汁。ぬくいもん食べておなかいっぱい、きょうも元気にナガシ。けど、コンビニに珈琲を買いに行くとき、となりのパン屋を素通りできない。またブルーベリーとクリームチーズのデニッシュを買ってしまう。ブルーベリーのみずみずしい甘酸っぱさ、クリームチーズのほどよい塩気、ホワイトチョコレートのくどすぎない甘さ、それらをまとめるパリパリのデニッシュ生地…!至高の四重奏、絶品である。エラリー・クイーン「クイーン談話室」読了。なんでEQはこんなにダシール・ハメット推し、「マルタの鷹」推しなん?わからぬ。シャーロック・ホームズとの出会いの一篇が白眉。からだを電気が走り抜けるような本との出会いを経験した人にはグッとくるはず。たのしい読書だった。帯にあるとおり、まさに「ミステリの愉しみ」。晩ごはん、ポトフにおもちを焼いて入れる。とてもおいしい。正月食材をどんどん消費する。我が家の正月食材残党の頭は白味噌。明日はこれを使って、ケンタロウレシピのクリームシチューにする。鶏肉と里芋、小松菜。寝る前に、こないだの歌舞伎番組で松本幸四郎がインタビューで言っていたことを思い出して反芻する。「役者は職人であると思っている、アーチストではなくアルチザン。職人としての芸をみなさまにお届けする。」むちゃくちゃかっこいい。

 

 

1月△日

ナガシ先に古い切手が入荷。むかしの切手、洒落てる。グッドデザイン。切手帖を見ているだけでたのしい。あつめてみたいなァ。切手収集はあこがれの趣味。ときめきを抑えきれずにいくつか買って帰ることにする。助六と姫路城、岸田劉生のがお気に入り。店員日誌に読んだ本がどうとかどういうミステリがなんやとか地元のマイルドヤンキーになってしまった友だちへの憂いとか誰が興味あんねん、ということを書いている。きょうは冷え対策を図解付きで書いた。冷え対策に貼るカイロの場所を試行錯誤していて、ついに秘策を見出したのである。足の甲に貼る。その冷えに効くツボにあたるように貼る。これだけである。「カイロは足の甲に貼りなさい」という新書でも出しそうな勢いでおすすめしたい。

 

好きであることを口外したくないくらいに好きなのである。ほんとうはどんな人かも知りたくない。その表現から想像しているだけでいい。緊張しいなので、あこがれのそのひとに直接会ったら、気化して消えてしまうとおもう。ファンがみな会いたいとおもっているとは限らない。そういうふうな仕方で応援しているひとの本を、ひとりしずかに読む夜。

 

 

1月☆日

休日。最低気温0度。さむい。炊きたてごはんとスクランブルドエッグ、ウインナー、茹でブロッコリ。朝食はもりもり食べる。昼食も夕食ももりもり食べるんやけど。朝ごはんはなんかうれしい。レコードプレイヤーとコンポをつなぐ線をもらったので、早速つなごうとするも届かず、あれやこれやしてるうちに、模様替えになる。これで、スピーカーからレコードの音が聞こえるようになった。新春気分でカラヤンとウィーン・フィルのシュトラウスコンサートをかけながら、がんがん掃除!片づけ!ひと段落して、氏神さんのところに初詣に行く。おみくじは小吉。すべてにおいて待て。とりあえず、待て。とのこと。待つ。ナイオ・マーシュ「死の序曲」を読み終える。ミステリらしいミステリ。他の作品もそうやけど、登場人物がみないきいきしていて、話のテンポがよくわかりやすいし、ドラマチックな展開でドキドキする。さすがニュージーランド演劇界の女王。ゴシップ好きでひとの嫌がることばかり言う、村の嫌われ者オールドミスふたりが、独身男前牧師の歓心を買うのに必死な描写がすさまじい(さいこう)!そんで、アレン首席警部がかっこいいんよなァ。上品でクール(うっとり)!

 

 

1月●日

ハイペリオンの熱狂以来、なんとなく抜け殻みたいになって、何を読もうかなぁという感じ。きょうは、買ったまま3年以上放置しているアーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」を持っていく。これは、映画も見たことない。監督の名前と、リヒャルト・シュトラウスのアレと、どうやら変わった映画らしいということしか知らない。そもそもSF映画をひとつも観たことがないのだ。スターウォーズ、ET、ブレードランナー、エイリアンも猿の惑星も、ぜーんぶ。もったいないことしてるんやろなァ。サンダーバードはだいすきやけど。あれはまたちがうのか?ナガシのあとは、友達とごはん。遅くなりましたが今年もひとつどうぞよろしく、とおいしいワインとイタリアン。そのあと、中華も食べに行く。京都の至宝、マルシン飯店の天津飯をひさびさに堪能する。おなかぱんぱんで動けない。苦しい。しかし、さいこうにうまい。絶品。

 

 

1月■日

雪の降るさむい日。ナガシ先で、雪が降る様子を窓越しに写真に収めようとするが、うまく撮れない。冬の景色。灰色の空と樅みたいな木の濃い緑色。シベリウス的景色。100円コーナーが復活していた。おもしろい文庫がたくさん。ちくま文庫のパトリック・バルビエ「カストラートの歴史」を買う。伴奏のレッスンでイタリア古典ものをやっているので。先生のソプラノを聞いて弾いているけれど、当時はカストラートが歌ったんやもんなァ。帰宅後、ココアを飲む。ホワァ。うれしい。家で飲むなら、ヴァン・ホーテンとかそういう高級なんより断然、森永ミルクココア。さいこう。新年のお手紙に、こないだ買った切手を貼る。「こいつぁ春から…」という気持ちで歌舞伎づくし。パオロ・バチガルピ「ねじまき少女」読了。ディストピア小説が大の苦手なので、慣れるまでおそるおそる、上巻がだいぶしんどかったけど、下巻はあっという間に読んだ。愚かな人間たちの哀しき黄昏。滅びと隣り合わせでありながらも権力闘争に明け暮れるところ、戦う強い女性、業病、環境や遺伝子の操作…設定や背景はなんとなくあの話に似てるんちゃうとおもいつつ、雰囲気はまたちがう。結末のそれは人類にとって果たして希望か絶望か。性的なんも含め暴力はしんどいが、ディストピア小説、おもしろく読めた。しかし、SFのありえない設定にはふつうにスッと入れるのに、少女漫画のちょっと夢みる設定には「んなことあるか!ありえへん!くそー…」ってなるの、なんで。つら。

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クボタ カナ


英国のクラシック・ミステリをこよなく愛する、ナガシの書店員。

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