俺たちの譲れないお金はいつも持ち歩いているけれど、使うべき時はいくつもある。ひとりになったらおまえのために。ふたりになったら自分のために。もひとり増えたらヤイヤイ言い合いになるようで。いつかのギラギラした日には、奪い合うことも覚えたけれど、アムステルダムに雨が降った時には無くしてしまった。傷だらけの天使に出逢い、右腕をホットプレートで焼かれている間は、前略おふくろから始まる手紙を書き、アフリカから光を放つような青春の蹉跌を経験した。カポネのような男が大いに泣いてくれたのは、息子の誘拐報道が出たせいで、だいぶん遅れて登場した多襄丸には約束の手紙を持たせなかったけれど、それも八つ墓村がカンでいるわけで、そこの居酒屋にはゆうれいが出るもんだから、祭りばやしが聞こえるよな。股旅にはマカロニをお供に、離婚しない女に会いにいくが、竜馬を斬ったのが極道の妻だと、コードネーム「裏切りの明日」が恋文に1750日もかけて暗号化したものを送り続けてくれたことに気づいたのは、夜汽車に乗った時だった。俺はいつだって気づけない影武者のような男だけれど、化石の森までもどり、川を渡ったあいつを瀬ぶりだと認識するのは早かった。これは四谷怪談の岡田以蔵にまつわる話。