まだ30歳とちょっとだが、いくつかの図書館で勤務してきた経歴のせいで、 友人には“流しの司書”と呼ばれることがある。
社会人になってから画学校に入ったり、公共図書館でも民間委託の会社の社員であったりしたせいで、確かに「司書」というスキルを持ちながら、あちこちの図書館で日々を過ごしてきた。
そのなかでも一番強い思い出としてあるのが、池袋にある大型図書館での3年間だ。これは思い出と呼ぶのは違って、働いていた日々は過去でも今も私の中で生きた時間のように感じる。
画学校に行きながら、夜間や週末に働ける図書館を探した。画学校卒業後、すぐに絵描きとして喰っていくことは無理だろうと思った。大学で司書の資格を取っていたが、司書というのは勤続年数などのキャリアを問われることが多い。学校に行きながら卒業後すぐに就職できるように考えて、「勤続年数を稼いでおこう」とわれながら計画的に考えて働きはじめた。
池袋の図書館・・・わたしは「トシマ中央」と読んでいたのでここでも「トシマ中央」と呼ぶが、そのトシマ中央は、都心部の大型図書館で夜間シフトもあるということで、スタッフには20代、30代の若い子が多かった。ちょっとお姉さんとか、近所の主婦とか、大学生もいたりして、年が近い子とすぐ仲良くなった。
下の階には劇場があり、図書館の上はすべて日立のオフィスが入っていた。10年くらい前の話だから今はあまり珍しくないが、当時ビルの中の4階と5階の図書館なんてそれまで知らなくて「都心部って違うな」と感じていた。
今年、東京スカイツリーは開業5周年になるそうだ。
在職中の大きな出来事の一つに、もちろんスカイツリーの就業の開始がある。
トシマ中央はビルの4階、5階にある。点字図書館、事務室やスタッフの休憩室は5階にあるが、東側に向いた窓が多く、広くて明るく眺めがとてもよかった。
遅番の勤務が終わり、夜10時過ぎに休憩室に戻ると東京の夜景がとてもきれいだった。
2012年5月に東京スカイツリーが押上に建設されることとなった。
池袋から押上はちょうど東の方向で、いつ着工されたのかは覚えていないが、ある時だれかスタッフが
「あれ、スカイツリーを建てているんじゃない??」
と気づいた。
晴れた青い空の遠く向こうに、周りよりちょっとだけ飛び出した細い建物が見える。昼間だしライトアップなんか当然まだだから、白い体は空気中に溶け込みそうで、なんとか目を凝らして確認するていど。でも東の方向に立っているそれは、おそらくスカイツリーで間違いなかった。
それから少しずつだけど着実に、「東京スカイツリーらしき建物 」は大きく空へ伸びていった。
毎日にょきにょきと木のように背が高くなっていく姿。忙しいカウンター業務から一息つきに休憩室に戻っては(トシマ中央は土日など特に鬼のように忙しい)その姿を見て、「大きくなってるねえ」とみんなで成長を見守っていた。
( 東京タワーが建つときもこんな風にみんなで眺めて楽しみにしていたんだろうな。
いつかこのスカイツリーの成長を思い出すときが来るんだろう・・・ )
そんなことを考えていたように思う。
まだまだ小さい頃から見ていたので、スカイツリーより“上から”眺めているつもりだったが、図書館(の入っているビル)はいつしかあっという間に高さを抜かれてしまっていたにちがいない。
なぜだか、完成してからのスカイツリーの姿はあまりよく覚えていない。昼間は相変わらず、周辺の空気に青白いタワーの輪郭が淡く見えていたし、たまに夜見ると夜景の中ライトアップされていて、あの展望台のところの光が流れ星のように「シュンッ、シュンッッ!」ときらめいていた。
開業後一度、展望台に登ってみたこともあるが、わたしにとってスカイツリーは、あのまだ頼りなげで、白く細く、少しずつ天へ伸びていく姿なのである。
「sky tree」 2017 アクリル絵の具 キャンバス 23×16.5cm