『焙煎家案内帖(京都編・一)』発行:ホホホ座
何が幸せか、と咄嗟に答えられなくても、うまい珈琲を飲むのは幸せか、とか、穏やかな時間を持つのは幸せか、など問われれば、答えを出すのは簡単だ。
そうした問いを立てるのが文学の役割の一つだとして、では、自分の仕事について語ることができるのは幸せか、という問いかけはどうだろう。
本書はそのような幸福に満ちた一冊である。
登場するのは、京都に腰を据え仕事を追求している、五名の焙煎家。いずれも自分の店を持ち、そこで立ち働く姿をオープンにしている人たちだ。このことは重要で、私たちは、(思い立ちさえすれば)いつでも彼らに会いにゆくことができる。
場所の佇まいへ身を浸し、仕事ぶりをまぢかに眺め、彼らの差し出すものを味わう。そうすることで、私たちは、本書に収められた語りを体験的に了解する。奥行きのある読書が立ち上がり、共感をもたらす。例えれば、言葉が声を得る瞬間に立ち会う。
仕事を語る幸せというのは、耳を傾けてくれる人がいる幸福でもある。
いま語る言葉をもたないとき、もっぱら聞き手にまわってみるのはどうだろう。良い循環が動き出しそうだ。
毎日、じっと豆に耳をすます彼らの姿勢をまねて。