あなたが書店を訪れたとしてまず目に入るのは、ずらりと並ぶ装丁。
その中で、あなたの目に留まるのはシックな色合いの1冊。
『ドレス』という本だ。著者は藤野可織。
あなたはもうすでにこの作家を知っているかもしれないし、まだ出会ったことのない名前かもしれない。
芥川賞を受賞したんだ、そしてこれは待望の最新短編集か。他に書いてあることは、内容からの引用やそれに触れることみたいだけど、これだけだとよく意味がとれない…
ただなんとなく少しのひっかかりを感じたあなたはこの本を買ってみることにする。表紙の感じも好きだし。
家に帰ってページをひらくと、8つの短編の題が等間隔に並ぶ。どれもなんだかそっけないようなタイトル。
装画はくらちなつきという人、装丁は川名潤。どこかで見たことがあるような気もする。折角なのでこれを機会に覚えておこう。気に入って手に取ったのだから、とあなたは思う。
さて、小説だ。「テキサス、オクラハマ」なぜこんな題なのかは読めばすぐにわかった。二つのワッペンにある文字みたい。というか、始まりかたがちょっとクールだ。
菫の歴代の恋人たちはみな、決まってこう言う。
「なにそれ?ちょっと見せて。テキサス、オクラハマ?」
菫が部屋着にしている、生肉色のパーカーのことだ。
こんな始まりで、この小説はいったいどこへいくのだろう。そう思いあなたは頁をめくり書かれてある言葉に集中しはじめる。一編を読み終わり、あなたは驚く。何に?何もかもに。
装丁から想像していた感じとはまた違う。そう思いもする。
少しの混乱と興奮をそのままに、あなたは二編目を読み始める。「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」また、驚くことになる。
そこからは一気に。三編、四編…言葉を追いかけていく内に、あなたはそれぞれ思いもよらない場所へとたどり着く。訳の分からない言葉などなかったはずなのに。
的確に配置された言葉はそれぞれ確かなものを書いていたはずだ。それなのに、気づけばあなたが見知ったはずの現実を知らぬ間に超えてしまっている。
そしてあなたは気づくだろう。自分がいま小説の愉しみの只中にいることを。
少し落ち着いてから改めて装丁に目を戻すと、最初に見た時とはまた違った印象を覚える。
無駄のない筆運びで描かれた二人の女性の後ろ姿。彼女たちは余計な物語を付加されることなく、ドレスの美しさを表現するために存在している。小説もまた、同じようにただ小説の愉しみを表現するために存在している。互いにしっかりと響き合っているようだ。
あなたは本の表紙をそっと撫でて、お気に入りの本を並べている棚に『ドレス』を差し入れる。近い未来に、再び読むために。
…と少しばかり(というよりも多分に)気取った紹介文を書いてみた。
話が長くなってしまったが結局何が言いたいかというと、この一冊はこの上ない代物だってこと。
そんな一冊について藤野可織本人の言葉を聞くことのできるまたとない機会がこの週末にやってくる。
この小説が気になった方は予約されることをお薦めしたい。
愛しかったはずの誰かや確かな記憶を失い、見知らぬ場所にきてしまった女性たちを描いた最新短篇集『ドレス』。
文学と奇想の垣根を軽やかに超えて、“そこにあるもの”を写しとるように表現され書き出される藤野作品。
私達が見慣れていたり、見なかったようにしている世界をそっと目の前に差し出してくれます。
今回は『ドレス』担当編集者を対談相手に、作品の魅力や執筆段階での裏話などもお話し頂きます。皆さま是非ご参加ください。
日 程:2017年11月18日(土)
時 間:開始 18:00(開場 17:30)
入場料:通常 1,000円(税込) / 書籍セット 2,000円(税込)
場 所:心斎橋アセンス「アウラの部屋」
出 演:藤野可織
協 賛:河出書房新社
★トークイベント後、サイン会を予定しております。