『今日の人生』
とてもいい言葉だと思う。
今アセンスで開催している益田ミリの著作のタイトル。
「みんなのミシマガジン」で連載されたものの中から抜粋・再構成され書き下ろしを加えた一冊で、四コマの枠組みを使いながら自由な長さでその日の出来事や気づきを淡々と描きだしたエッセイコミックだ。
伸び縮みするコマ数が、今日という日々が一様な時間ではないことを教えてくれる。その中にはその日出会った些細なこと、聞こえてきた会話・見かけた風景など何気ないものがたくさん詰まっている。そうしてそこから浮かびあがった感情や、伸びていく思考へとゆるっとシフトされていく。
こうして描かれていく日々は丁寧に描かれている…というの言い方ではなんかしっくりとこない。それよりもただ、日々の暮らしの中で、ずっときちんと自分と向き合っている。そういう感じ。
これは簡単なようできっとずっと難しい。
毎日の中で私たちは勿論一人で生きている訳ではない。周りと折り合いをつけながら暮らしている中で、その時その場の自分自身の気持ちや思いを優先し続けるような真似はなかなかできない。『今日の人生』の中の彼女も、周囲に気を遣い、言いたいことを言えずにいたり、妙に自分の行動に説明的になってしまったりしている。思うままに生きている訳ではない。そんな日々の中で人はどうしても自分を後回しにしたり、ないがしろにしてしまったりしていることがあるのだと思う。
けれど、彼女は自分自身を見つめることを決してやめない。流された自分も含めて考えることによって、自分の気持ちを大切に扱っている。これはひとりよがりな考えではなくて、自分が世界と正対するため、そして相手を思いやるためにも必要で大切な作業なのだと思う。
最新刊『永遠のおでかけ』も。
父の死と向き合ったこの一冊も、自分自身と向き合うことを決して怠らない。小さな感情の起こりや悲しみの強弱、現実から目をそむけている自分まで、ひとつひとつと向き合うように言葉へと移しかえていく。その小さな誠実さが読む人の中でしんしんと積もるように折り重なっていく。
そうすると、何気ない日常だった一コマ一コマが思いがけず感情を揺さぶることになる。それは読むときどきによって、きっと大きく変化するもので。
この場面がよくて、ではなく、その波打つ時間の連なりこそが益田ミリ作品の魅力なんだろう。
これはどの作品にも共通した魅力で、まだ読んだことがなくて気になったあなたはとにかく一冊手に取ってみてほしい。
今開催中の「今日の人生 in Osaka」には、そんな益田ミリ作品の魅力を知るだけでなく、本人の本棚がコメント付きで表現されていたり、大阪の風景を詩とともに切り取っていたり、何ならここでしか見ることのできない描きおろしだってある。ファンの方にとっては絶対見逃せない展示になっていると思うし、まだ作品を読んだことのない人にとっても良い入口になっているんじゃないかなぁ。
会期もあとすこしばかりですが、この文章を読んで気になった方はあなたの「今日の人生」を考えがてら、是非心斎橋までお越しくださいませ。
大阪で『今日の人生』を考える。
益田ミリ『今日の人生』in OSAKA 展
日 程:2018年3月6日(火)~2018年3月28日(水)
時 間:11:00~20:00
場 所:アウラの部屋心斎橋アセンス3階
協 力:ミシマ社
入場無料
大阪生まれのイラストレーター、益田ミリの人気コミックエッセイ『今日の人生』の展覧会が関西に初上陸!
「地元・大阪」をテーマに描き下ろしたマンガや詩などを中心としたここだけの特別限定企画、アウラの部屋が『今日の人生』、そして益田ミリの魅力を感じられるひと部屋になります。
展示の一部にはなんと3ヶ国語(英・中・韓)対訳付き!