拝啓
陽炎立ち昇る暑い日々が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
今日はあなたに是非お薦めしたい本があって、久々に筆をとりました。
澤西祐典という小説家をご存知でしょうか?2011年に集英社が主催する新人文学賞のすばる文学賞を受賞しデビューした作家なのですが、そのデビュー作がまた不思議で、ベルギーの片田舎で農夫の妻がフラミンゴに変身してしまう所から始まるのです。こういうお話を変身譚というらしいですね。
語りかたというのでしょうか…物語の運び方が本当に上手で、読むとどんどんと引き込まれていき、あっという間に読み終えてしまいました。
ああ、つい筆が走ってしまいましたが、お薦めしたいのはその「フラミンゴの村」ではなく、この方の最新刊なのです。『文字の消息』という作品集で、3つの小説が収められています。すこし突飛にも思える奇想をひとつの工芸品のように言葉で丁寧に語り磨き上げていくその手業は惚れ惚れするものがあります。
表題作である「文字の消息」は、街に突然文字が降り始めたことを伝える一通の手紙から始まります。(実は、恥ずかしながらそれをなぞって手紙をしたためてみた次第です。)
文字が降るだなんて少し素敵、などと思って読んでいますと、そうも言ってられない状況が次々と明かされてゆくのです。その出来事の一つ一つが、不条理の連続で悲喜劇のようですし、現実を透かし見れば皮肉としても感じられます。そんな深く読み解きたくなるような謎が提示され続け、読む手は止められずに頁をめくり続けることになります。他の2つの作品もそれぞれきちんと整えられた言葉で語られていく幻想奇想が面白く、こんなに本に没入できたのは久々で、是非この感覚を本を読むことが好きだったあなたにも味わってほしいと、そう思ったのです。
もしかしたら、すでにご存じかも知れないのに長々とお付き合いさせてしまってごめんなさい。けれど、これがまた新しい本との出会いのきっかけになれば幸いです。
是非クーラーの効いた部屋でこの物語に浸る時間を過ごしつつ、酷暑に負けぬようくれぐれもご自愛くださいませ。
敬具
追伸
大事なことをひとつ忘れていました。
今週末の土曜日、心斎橋アセンスという本屋で、澤西祐典さんと、ガルシア=マルケスやリョサの翻訳で知られる木村榮一さんとのトークイベントがあるそうです。
是非参加されてはいかがでしょう。きっと、私の拙い推薦文よりも、もっと小説の良さが伝わるはずです。
もし参加されたなら、また是非感想を聞かせてください。お便り待っています。
Iより
澤西祐典『文字の消息』刊行記念対談
言葉が生み出す「物語」について
http://aura.athens.co.jp/event/20180721/
日 程:2018年7月21日(土)
時 間:開始 18:30(開場 18:00)
入場料:通常 1,000円(税込) / 書籍セット 2,000円(税込)
場 所:心斎橋アセンス「アウラの部屋」
出 演:澤西祐典×木村榮一
協 賛:書肆侃侃房
★トークイベント後、サイン会を予定しております。
澤西祐典の最新作『文字の消息 』(6/18発売予定)の刊行記念トークイベントを開催!
『文字の消息』はどこからともなく降り積もる“文字”が日常を脅かしてゆく。
家が、街が、やがて文字に埋もれてゆく世界を描いた表題作「文字の消息」をはじめ、静かに寄せてくる波のように、私たちの日常を侵食していく3編の物語が収録されています。
これまでにも物語ることで動き始める言葉の世界で読者を魅せてくれた澤西作品。
今回は、スペイン語圏文学者であり、ガルシア=マルケスやリョサ、コルタサルの翻訳者としてラテンアメリカ文学を精力的に紹介している木村榮一を対談相手に迎え、最新作の魅力をはじめ、小説にまつわるさまざまなことをお話し頂く予定です。
皆さま是非ご参加ください。