山田風太郎を盗み読む
【読読】 なかがわ

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2016-08-12 01:01:20

 

今日、古書ビビビさんが「佐伯俊男先生装丁の山田風太郎の文庫を店頭に」というツイートをされているのを見て、昔このシリーズを集めていたことを思い出しました。

 

 

山田風太郎のことを知ったのは20歳くらいのとき。中条省平氏の本で『くノ一忍法帖』が紹介されているのを読んで興味を持ち、さっそく講談社文庫から出ていた忍法帖シリーズを読んだのでした。

 

一言でいうと、すごくおもしろかったです。史実をきちんと踏まえながら、歴史の空白の部分を想像力でつなぎあわせるストーリーテリングもさることながら、次々と出てくるキャラクター(忍者)と忍法が実にバカらしくておもしろい(想像の2つくらい上をいくアイデアが次々出てきます)。本当のインテリが徹底的にバカなことをするみたいな、その作風に魅せられるとともに、各作品に通底する無常観とユーモアが、なんともいえず好きになったのでした。

 

それで講談社から出ていた忍法帖シリーズを順次読んでいき、それでも飽き足らず絶版となっていた角川の忍法帖シリーズ(装丁・佐伯俊男)の中で、講談社の文庫シリーズにない作品をヤフーオークションで次々落としていったのでした(もちろん、ちくま文庫から出ていた明治モノをはじめ、購入可能なシリーズは基本的に全部買っていました)。

 

 

余談ですが、約1年間という短い時間ですが、会社に勤めていたことがあります。

コピーライターのアシスタントとして働き始め、ライターチームは僕と師匠の二人の部屋で、上階にデザイナーさんが勤務している感じでした。

 

師匠いわく、「本を読むのもライターの勉強だから、仕事が暇なときは自由に本を読んでいいから」「小説を読むのもいい。例えば、漢字とひらがなの使い分けとか、いろいろ勉強になるし、ジャンル問わず読んだからええから」とのことで、本好きの僕はわーいと喜び、仕事がヒマなときはよく事務所で読書をしていました。

ちなみに、当時は就職氷河期といわれていたくらいの超不景気な時代で、冬場の繁忙期が終わった後はびっくりするくらいにヒマで、春先くらいからは出勤して帰るまで一日中読書なんて日もなかなかの割合いで発生していたのでした。

 

当初はラッキー、と無邪気によろこんでいたのですが、しかし、ものごとには何事にも限度というものがあります。出勤して毎日本だけ読んで家に帰るなんてのが二週間くらい続くと、さすがにわーい!とかいって喜んでばかりもいられません。例えばこれが、ワンフロアに100人以上いるような大企業だったら特に懐疑的な気持ちにもならず、その恩恵を被っていたと思うのですが、師匠と一対一の部屋です。

 

なんぼヒマだといっても師匠の仕事はあって、師匠がキーボードで文字を打つ音を背中越しに聞きながら(またカチカチいう音がよく響きました)、ただひたすら本を読むというのはなかなか過酷というか、けっこうな緊張感があり、いつしか室内には緊迫したムードが漂うようになっていました。

 

 

で、あるとき師匠に呼ばれました。「ちゃんとコピーの勉強はしてるんか?」「はい、一応、毎日本を読んでいます」「そしたら、僕が今からテーマ与えるから、それのキャッチとリードを書いてみ」「わかりました」みたいな感じのやりとりがあって、与えられたテーマに対して(確か1回目は、テーブルの上に置いてあった錆びた灰皿だったと記憶しています)文章を書きました。完成したものを見せると、めっちゃ怒られました。

 

「勉強してるって言ってたけど、ほんまにちゃんと勉強してたんか。ちなみに、今日は何読んでてん?」「山田風太郎です」「また、山田風太郎か!?」「はい、山田風太郎です」「今後、山田風太郎は禁止や!」と言われたぼくは、えー、なに読んでも勉強になる言うてましたやん、とばっちりですやん、とか思いましたが、師匠の命令には逆らえません。ていうか、スカスカの恋愛小説とかならまだしも、山田風太郎の文章は格式も高く、難しい熟語もたくさん出てくるし、それこそ勉強という観点からはそんなに悪くない対象だと思ったりするんですけど、やっぱり師匠には逆らえません。

 

ここでひとつフォローしておきますと、上の文章だけ読むと師匠はひどく意地悪な感じの人のようなイメージを与えるかもしれませんがそんなことはなくて、厳しい側面はありますが後輩思いのすごくいい方です。ぶるいの猫好きでもあります。

ただ、このときは思いもよらぬ閑散っぷりに鬱積するものがあり、多少のとばっちり感があったのではないかと邪推はいたします。

 

 

それで、例えば「広告コピー概論」とか、より業務に直接的なジャンルの本をいろいろと読むようになりました(てか、仕事せーよ!ってつっこみが聞こえてきそうですが)。こういったジャンルの本もそれなりにおもしろく、別に読むのが苦痛だったとかいうわけでもありませんが、たまには他のものも読みたくなるというのも無理のない話でしょう。

 

そこで、師匠が打ち合わせや取材などで外出した隙に、こっそり山田風太郎を読みました。急に帰ってきたとき用に、ディスクの上に広告批評とかダミーで広げておき、部屋で隠れてエロ本を読む中学生みたいな感じになりながら、ここぞとばかりに山田風太郎を読みました。実際に、思わぬタイミグで師匠が帰ってきて、あわてて本を差し替えたけど明らかにこれバレてるんちゃうんみたいなことも一、二度ありました。

 

なつかしい思い出です。

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