「言葉」とは誰かを守り、誰かを傷つけたりするものでもある。
直線的な言葉はひとを動揺させる事もあるが、時には共感と感動という事態を引き起こす。
「舟を編む」は、辞典「大渡海」の編纂を通して、個性的な面々の想いがひとつに編み込まれ、大量の熱を帯びながら、心がつながっていくストーリー。言葉が「大渡海」という舟に乗り、海を渡り、人の心に届くまでを描いている。
情熱の全てをささげ、「辞書を作りたい」と願う荒木は定年を間近に迎えようとしている。
後任探しに頭を悩ませる中、冴えない営業部員の「馬締光也」と出会う。
馬締の持つポテンシャルは不透明で限りなくグレーにくすんでいた。しかし、馬締は辞書作りに没頭していくうちに、言葉に対するすさまじい執着心と驚異的な集中力を開花させていく。
そして、馬締のもどかしくもある、下宿先の美しい孫娘の香具矢との純情すぎる恋物語。
読み終えた後、不思議な感覚が頭をよぎったのである。
辞書をめくり、日常どこにでもある「恋愛」「男」「女」という言葉の意味さえ、いちいち探索してみたくなる感覚。
自分の発する言葉を手繰り寄せてみたくなる感覚が芽生えたのである。
言葉とは発する側と受け止める側の想いが、必ずしも一致するわけではない。
自分の言葉に薄氷の上を渡るような心細さを感じる時、きっとそれは自信の無さと熱量不足であると確信した。
自分の発する言葉にどれだけの想いと強さがあるのか。
そして、そこにはどれだけの熱量が込められているのが重要であると気付かされる。
「伝わる」には、想いがあり、共感が生まれるからこそ、聞き手側の行動が変わる。
それこそが、言葉と想いが重なった時に湧き上がるチカラだと感じる。
「伝える」のではなく、「伝わるチカラ」が、自己の課題だと気付かせてくれる一冊である。
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「パンに合う一冊」 三浦しをん著「船を編む」 カラフルな一冊~スイーツなパン~より転載