Somewhere その2 近藤聡乃   『A子さんの恋人』そして『近藤聡乃エッセイ集 不思議というには地味な話』
 絵描き kaoru

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2016-09-08 13:04:53

 

 

Somewhere その2

 

ブックセレクション

近藤聡乃  

『A子さんの恋人』

そして『近藤聡乃エッセイ集 不思議というには地味な話』

 

 

 ある暑い夏の日、神楽坂のギャラリーtemameさんでの展示打ち合わせを終えたわたしは本と涼を求めて、坂上のカモメブックスに立ち寄った。いつもどおりセンスのいいセレクションの棚、店奥にはおしゃれなギャラリースペース・・・そしてふだんなら足を踏み入れないまんがコーナーに入ってみたのです。

 入り口に面見せしておいてあったのは『A子さんの恋人』近藤聡乃。「え?A子さんて?」不思議な名前である。それに近藤聡乃はNY在住で昔からちょっと変わったアニメーションをつくる現代アーティスト・・・今はこんなフツーそうなまんがも描いているの・・・!?と手にとってみた。なによりA子さんは29才でまんが家で、NYの恋人との結婚を決断できないまま日本に帰ってきて、かつての恋人や学生時代の友人たちとなんとなく過ごしていて・・・という日常を描いていて・・・。(似てる・・・わたしに似てる!)とドキドキする胸をおさえ、何年ぶりにまんがを買ったのでした。

 

 

 実は「似てる!」と思いながら、わたしとA子さんはほとんどちがうのである。だって、わたしはまんが家じゃないし、NY帰りでもない。似てるのはアラサーであることと、美術を学んだことと、風貌(これ、かなり)くらいである。でもそれでも「まるで自分のことみたい!」と思わせてしまうのが近藤聡乃の魅力であると思う。

 

 江戸川橋のドトールに入り、第1巻を1時間半ほどで読み終えたのでした。うちに帰り、せんたく物をたたむなどして、家人との待ち合わせで池袋に行くと決まったとき、わたしは早めに出てジュンク堂に寄ろうと決めた。ジュンクになら、A子さんの2巻が絶対あるはずだと考えたからです。はじめて降りる地下1階、並び方がまったくわからなかったけど、息を切らしながら店員さんにたずねて無事カウンター目の前にあった2巻をゲット!わたしはすでに「A子さん」にしっかりはまっていたのでした。結局、夕飯はつくらずにジュンクのとなりの“いきなりステーキ!”で、がっつりとしたステーキをいきなり食べて帰宅すると、自室に引きこもり2巻を読みふけったのでありました。

 

 

 

 『A子さんの恋人』

 A子さんは美大卒でまんが家で、NY留学をきっかけに日本人の元恋人を捨て、NYで新たな恋人(アメリカ人?)と付き合うも結婚を決断できずにビザが切れ帰国する。そしてかつての恋人やユニークで毒のある友人たちと、なんとなく「どうする、これから・・・?」感を漂わせて日々を楽しく過ごしている・・・というストーリーで、それだけなのですが、それのひきこむ力が強いのです。

 

 その最大の魅力は近藤さんの人間観察力と、その各登場人物の微細な感情の表現力です! 目立った事件やドラマは起こらないけど、ひとりひとりの心の動き、そしてそれがそれぞれの相手とからみあう関係、これこそがこの作品の大きなドラマとなっている。わたし自身、31才で普通大と美術学校を卒業していて、今でも学生の頃の友達となんとなく遊んだりして、結婚を考えながらも優柔不断なところがあり決められず・・・。「A子さん」を読んでいくと「そうそう、あるある!!」が続くのです。美術系の人間に特有の感覚も手伝っているのでしょう。それにしても、「なんでこんなことを知っているの・・・?」とわたしたちの心の機微に気づいている、でも平然とNYで過ごしているであろう近藤さんの狂気のようなものに恐れすら感じます。見えないように隠してあったものをのぞかれた感じ・・・。

 

 わたしが好きなエピソードはU子がお正月に純粋で心がきれいすぎる年下の彼についていけなくて「だれか薄汚れた心で中和しないと自己嫌悪で死にそう!」と感じるシーン。この気持ち、U子がわかってくれたなんて・・・! 

 そしてだれよりも狂気のような才能を持ちつつ悲しいひねくれ方をして、いつでもひょうきんでひとりぼっちのA太郎という人そのもの。A子がA太郎と別れようと決めたエピソードなど人ごとながらゾッとします。A太郎という人の底知れなさが感じられます。おそらく、人一倍、さみしくてやさしくて才能がありとても器用な人なのでしょう。ただとても弱いのかもしれません。

 

 

 

 『近藤聡乃エッセイ集 不思議というには地味な話』

 そんな近藤さんの「ゾッ」とするところを集めたようなエッセイ集もさっそくチェックしました。それまでの近藤さんの作品の印象は「なんともいえない奇々怪々な空気感」でした。たしか昔の映像作品と太宰治の「女生徒」をまんがにしたようなものを美大在学中かなにかに見たような気がします。

 まさにこのエッセイ集もその奇々怪々な作品そのもので、まんがもついていますが、はっきり言ってわからないです。正確にいうと、「わかるような気がするけどわかりきらない」に近い気がします。これって近藤さんの魅力をそのまま言葉にしたような言葉かも・・・。わかったような気になる、でも実は全然ちがう・・・とか悪夢のようです。そういえば、わたしは怖がりですが、本当に怖い物はホラーでもスプラッタでも幽霊でもなく、こういった人間心理の「気づけていない部分」だったと思い出しました。おそらく近藤さんがこの世界を「わかりきらない、不可解なもの」だと捉えているのだと思います。きっとそれこそが、「不可解な世界をのぞきたい」という心こそが近藤さんの創作意欲の源なのかもしれません。

 

 さて、「NYで考え中」というNY生活をまんがにしたものも月2回Web連載されています(単行本にもなっている)。亜紀書房の「あき地」にて。こちらもおすすめです。

 

 「A子さん」の3巻が待ち遠しい・・・!

 

 

 

『A子さんの恋人』①② ビームコミックス

『近藤聡乃エッセイ集 不思議というには地味な話』 ナナロク社

かもめブックス  地下鉄神楽坂駅前 http://kamomebooks.jp

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絵描き kaoru


絵描きです。キャンバスにアクリル絵の具で自由な世界を描きます。 お守りの絵や感性で描くポートレートなども描いています。 JCAT NYメンバー。 絵描きになる前の職業は図書館司書。小さい頃から本に囲まれて育ちました。 旅行、コーヒー、食べること、スピリチュアル、自然の多いところが大好き。 埼玉県在住、東京都のわめぞ(早稲田・目白・雑司が谷)エリア、川越が得意です。 京都も大好き。 https://kaoru1984.amebaownd.com http://www.jcatny.com/kaoru-kaoru_painter

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