連載 みどりの本(3) 『ぼくのおじさん』
【スロウな本屋】 小倉 みゆき

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2016-10-10 18:09:12

 あらしになって ふねは かえってこない。
 かあさんも とうさんも いなくなっちゃった。
 ひとりぼっちだ ぼく。
 カーテンしめて へやに すわりこんでいた。

 

暗がりのベッドの上に、ちょこんと座った「ぼく」。
どうしようもなく孤独で、空疎で、すべてを投げ出したくなったときの気持ちは、
この哀しげな小さなぞうの姿に、ぴたり重なる。

 

 さあ そんな くらいところから でておいで

 

ドアを開けて迎えにきたのは、ぞうの「おじさん」だった。
歳をとって、しわがいっぱいのおじさん。

 

ぼくとおじさんは、汽車に乗った。
ピーナツを食べながら、数えた。
過ぎていく家を、畑を、電柱を。
はや過ぎて数えられなくなると、ひざの上のピーナツの殻を数えた。

 

おじさんの家ではじまった、あたらしい日々。
「ぶおおおおん!」 大音量で吠えながら、夜明けを歓迎するあいさつ。
おじさんが丹精する、庭の花々。
時々ぼくは、両親のことを思い出し、泣き出したりもしたけれど、
おじさんは、持っている服をぜんぶ重ね着したり、一緒に歌をつくったり。
いつだって、ぼくをたのしい気分にしてくれた。

 

ある日、電報が届き、両親が無事だとわかった。
ぼくとおじさんは、汽車に乗った。

 

 ひとつ、ふたつ・・・

 

おじさんは、また数えはじめた。
おうちでも、畑でもない。

家に着いた。うれしい再会。みんなですてきな晩御飯。
眠る前に、おじさんがぼくの部屋にやってきた。

 

 きしゃの なかで わしが なにを かぞえていたか しりたいかい?

 

悲しみのどん底にいる小さな「ぼく」に、そっと寄り添った「おじさん」。
人生には、いろいろあって、
悲しいけれど時々、こんな「おじさん」を必要とすることだって起こりうる。
あの時の、あのひとが、私にとっての「おじさん」だったな。
あのひとの、あのことばも。
今になって、気が付く。
私はだれかの「おじさん」に、いつかなれるだろうか。

 

がまくんとかえるくんシリーズでお馴染み、アーノルド・ローベルの作品。
しみじみとした味わいに、泣き出しそうになる。
哀しみの真っ只中にいた時と、通り抜けた後とで、
こころを掴まれる箇所が、変わっていたことに気付いた。
「おじさん」、そばにいてくれて、ありがと。

 


『ぼくのおじさん』
アーノルド・ローベル 作  三木卓 訳  文化出版局 刊  922円(税込)

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【スロウな本屋】小倉 みゆき


スロウな本屋(岡山県岡山市) 店主。 スロウな本屋は、「ゆっくりを愉しむ」をコンセプトに、 絵本と暮らしのぐるりの本・もの・コトを揃えた、小さな新刊書店です。 http://slowbooks.jp/

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