野菜をいただく機会が増えてくると、夏が来たなと思う。
岡山は都会に比べて、仕事をしながら家庭菜園や畑を愉しむひとが、ゴロゴロいる。
収穫時期も重なるので、同じ時期にあちこちから、
売りに行くほどキュウリをいただいたりもする。
愛おしい岡山の夏。
『種をまく人』は、アメリカの少しくたびれた町のお話である。
さまざまな国からの移民が多い、貧民街の一角。
アパートの前の空き地は、ゴミ捨て場と化していた。
ひとりのヴェトナム人の少女が、捨てられた冷蔵庫の陰に、6粒のマメの種を蒔いた。
亡き父を偲んで。
マメの芽が出た頃から、ひとり、またひとり、と
空き地を自分の畑にする者があらわれた。
家出した少年、まもなくこの世を去ろうとする老人、
心を閉ざす女性、妊娠したティーンエイジャー…。
野菜が成長するにつれ、孤独を抱えていた人々の間で会話がはじまった。
ゴミ捨て場は、いつしか誰もが使える畑となり、笑顔が生まれた。
町は少しずつ変わっていった。
小さな本屋の店主にまでお福分けいただいた野菜たちは、
それぞれの菜園で、どんな時間を過ごしてきたのだろう。
種を蒔くこと。
おいしい野菜も、町づくりも、人生も、全てはここからはじまる。
『種をまく人』
ポール・フライシュマン 著 / 片岡しのぶ 訳 / あすなろ書房 刊 / 1,260円(税込)