たまたま入ったイタリアのバーで、
たまたま居合わせた教授の家の半分を買うことにした主人公。
家の外観を変えることに厳しいイタリアの家の改装は、
賄賂によって許可がおりると知って、さっそく賄賂の準備をする主人公。
外壁工事がばれないように、観葉植物を置いてごまかす工事業者と、賄賂を暗に匂わす嫌らしい公務員。
読んでいるほうがハラハラする、
行き当たりばったりのイタリア暮らしスタートではじまる10篇の短編集。
淡々とした文章で、テンポのいいコメディみたいにはじまるのだけれど、
読み進めていくうちに、主人公がイタリアで経験したいろんな人のいろんな人生の交差点の話だと気がつく。
こんなことあるの? っていうドラマチックな話から、
救いようのない悲しい結末の話まで、イタリア全土を舞台にした随筆。
どの話も、国や人種を超えて理解ができる人の弱さと、
苦難をなんとか乗り越えようとする力強さがあって、読むのが止まらない本でした。
一方で、問題に立ち向かう方法のなかに、
イタリア人ならではの根本的な明るさが感じられて、文化の違いも感じられます。
日本人の感覚を持ちながら、イタリアに暮らして30年以上の内田洋子さん。
読んでいて気がつくのは、内田洋子さんの好奇心と屈託のなさと行動力のあるオリジナルな感性こそが、
普段の暮らしをドラマチックにするエッセンスだということ。
イタリアの地方の描写がとても良くて、
海外を旅する魅力は有名な都市だけには無いのだなと知ることもできる、良い本でした。
内田洋子『ミラノの太陽、シチリアの月』(小学館・2012年)