つぶやかなければよかったのに日記3
 クボタ カナ

このエントリーをはてなブックマークに追加
2016-11-27 22:56:34

10月○日

NHKのドラマ「夏目漱石の妻」がよい。キャストを知ったときからたのしみにしていたが、長谷川博己と尾野真千子がすばらしい。挿入曲のシューベルトのピアノソナタがまたとてもよい。第21番。いつか弾いてみたいなァ。香日ゆらの「先生と僕」をざっと読み返す。この漫画は、私のSF師匠に教えてもらったもの。日本文学のフェアをしたときだったとおもう。漱石愛あふれる、すきな本。おもしろいです。師匠のすすめる本は、なんでもおもしろい。さいきん教えてもらったのは「バーナード嬢曰く」と「カエアンの聖衣」。夜、なかなか眠れないので、カーター・ディクスン「一角獣殺人事件」を読み出す。「皇帝のかぎ煙草入れ」のときもおもったけれど、ちょっとそれ、ありなん?それ推理しましたってアクロバットすぎひん?カーはやっぱりあまり好きな感じではないな、と確認した。でももう一作、「火刑法廷」は読んでみようかともおもう。

 

10月■日

このあいだ練習室で弾いたときから、腕が痛いなとおもっていたけれど、とうとう一曲弾ききれなくなってしまったので、レッスンをキャンセルして鍼治療に行くことにする。腱鞘炎だとおもう。ヨーグルトとはちみつを混ぜるスプーンがもう重くて回せない。どうせ整形外科に行っても、湿布とロキソニンを処方されるくらいだろうから、ぎっくり腰を一発で治した鍼の先生に賭ける。発表会までの時間を考えて不安や焦りがむくむく。間に合うのだろうか。練習できなくてそわそわするのをやめてモチベーションをあげようと、「のだめカンタービレ」を読み返す。いつもコンクールのところ、8巻くらいから読む。実家でシューベルトを弾いておばあちゃんが拍手してくれるところ。ここが好きすぎて何度読んでも号泣してしまう。鍼の先生のところまでは、京都駅から二条城に向かうバスで行く。観光客でいっぱい。雲ひとつない空にあざやかな京都タワー。丁寧に施術してもらって、痛みはほとんどなくなる。さすが。練習したあとは冷やすこと、そのあとマッサージなどすること。いろいろアドバイスをもらう。安心したらおなかが減って、イノダコーヒでひとやすみ。「深夜食堂」の新刊が出ていたので買って帰る。

 

10月☆日

このあいだヤフオクをチェックしていたら、ミステリの絶版文庫を送料込500円まででたくさん出品しているひとを発見。うおおおおお!となって落札したリチャード・ハル「伯母殺人事件」が届く。三大倒叙のうちこれだけ未読。だいたい1,200円くらいするようなので、誰にも見つからずそっと落札できてほんとうによかった。これがあるから、定期的なヤフオクチェックは止められない。むかしの文芸書、初版で函も帯もきれいなものが二束三文で出ていたりする。遺品整理とかそういうことなんだろうか。いま探しているのは、吉田健一の「わがシェイクスピア」。安くで手に入れたいとおもっている。都筑道夫「キリオン・スレイの復活と死」を読み終える。これもヤフオクで。さすがエンタテイメント小説の名工、どれを読んでもおもしろいなぁ。という勢いそのままに「退職刑事」も注文する。

 

10月●日

ひんやりとした朝。よく晴れて洗濯日和。目玉焼き、ベーコン、チーズのトーストにあったかいコーンスープで朝食にする。このインスタントのコーンスープ、むかしは絶対カップの底に粉のかたまりみたいなのが残ったのに、最近のはきれいに溶ける。技術の進歩をしみじみ感じる。すごいなァ。ピアノの練習。練習したあと冷やす、寝る前お灸。で、だいぶ痛くなりにくくなった。弾き合い会では、盛大に失敗して本番での無事を祈ろう。夜中、明け方ちかくまでかかって、スタンリー・ハイランド「国会議事堂の死体」を読み終える。いままで読んだ中で五指に入るかもしれない傑作中の傑作。読んだあと抜け殻になるくらい熱中した。疑問におもうところもあるが、それを超えたおもしろさ。オリジナリティ溢れるミステリやけど、英国ものならではの味も堪能できた。すばらしい。控えめに言って、さいこう。途中でやめられないくらいおもしろかった。興奮冷めやらぬまま消灯。

 

10月□日

お昼ごはんにお気に入りのパン屋でサンドイッチを買う。このあいだイノダで調子に乗ってミックスサンドイッチを食べたら口がかゆくなってしまったので、きょうはサーモンとポテトサラダにする。生のトマト、油断は大敵。「退職刑事」がおもしろくて、するすると注文し、するすると読み進めている。もうすぐ最終巻。アシモフの「黒後家蜘蛛の会」もそうやったけれども、最初の2冊がいちばんおもしろいのではないかとおもう。

本屋さんにて。こないだ店番のときに読んだ雨宮まみと岸政彦の「愛と欲望の雑談」がおもしろかったので、岸政彦「断片的なものの社会学」を買う。ほかにも古本で都筑道夫「黄色い部屋はいかに改装されたか?」を発見し、思わず買ってしまう。中にフィリップ・マクドナルドの著作が出てきたのでネットで調べてみると、軒並み品切。ショックと危機感を覚える。品切・重版未定の本を買うことが多いからしかたないけれど、新刊で買えるもはできるだけ新刊で買おう。復刊フェアの本も買おう。微々たるもんやけど、古本で買ってばかりで文句を言うのはあかん。ちゃんと買うからいい本を出し続けてください、品切にせんといてください。古本でいいかとおもってたブラウン神父、新刊で集めることにする。寝る前に「断片的なものの社会学」を読み終える。社会学とあるので、もっと専門書ぽいのかとおもったら、短篇小説のような味わい。この社会で生きていかねばならぬひとたちに、ひたひたと染み渡る水のような一冊。淋しさにそっと寄り添ってもいいし、笑うしかないことを笑っても、酒を飲んでみたっていい。

 

10月★日

「退職刑事」のあとがきで触れられていた、ジェイムズ・ヤッフェ「ママは何でも知っている」を読む。おもしろかった。ミステリとしておもしろいのはもちろん、解説で法月綸太郎が言ってるみたいに、O・ヘンリーみたいな、ふつうの人たちの人生の機微みたいなのがよいスパイス。アメリカ短編小説の魅力にあふれている傑作。さむくてこたつから出られないので、どんどん読書がはかどる。一緒に買った復刊フェアの一冊、クレイトン・ロースン「棺のない死体」も一気に読み終える。息もつかせぬ展開で最後までぐいぐい読んだ。幽霊がどうやってできるかのあたりがいちばんおもしろく感じた。解決のところは、そうなるのがしかたないような作り方なんやけれども、ごちゃごちゃしていてちょっとしんどい。密室や不可能犯罪ものは、そうならざるを得なかった理由がおもしろいのであって、仕組みの説明はどうしても複雑でごちゃつきやすくおもしろくないとおもう。「チャイナ蜜柑の秘密」がまさにそれ。仕組みは何回読んでもよくわからない(角川文庫の新訳版の図解でやっとわかった)のでスッキリしないけれど、そうせざるを得なかった理由はむちゃくちゃおもしろい。

 

10月◎日

発表会前、最後の練習室。レッスンももうない。このあいだの弾き合い会のときに盛大に失敗してアドバイスをもらってから、自分ではかなりよくなったとおもう。間違えても弾きたい雰囲気が出ているような気がしている。あとは腱鞘炎がひどくならないことを祈るのみ。うれしくなってお酒を飲みに行く。存分に酔っぱらい、録音した自分の演奏を聞かせてもらってブラーヴァー!と感動する。完全なるアホ。アホやけど、ええ演奏。まだまだ未熟なりにいい演奏ができたというよろこび、ちいさな自信。このままできるかは、知らん。けど、よかった。ますます、飲む。明日はきっと、ふつかよいだろう。

このエントリーをはてなブックマークに追加

クボタ カナ


英国のクラシック・ミステリをこよなく愛する、ナガシの書店員。

クボタ カナさんの他の記事を読む



スポンサーリンク

others

【誠光社】 堀部 篤史

【古書ドリス】 喜多義治

【July Books/七月書房】 宮重 倫子

【CafeT.M. en】 城戸 実地

【曙光堂書店】 長坂 ひかる

【大吉堂】 戸井 律郎

【スロウな本屋】 小倉 みゆき

【トロル】 関本

【まめ書房 】 金澤 伸昭

【古本と珈琲 モジカ】 西村 優作

【喫茶ジジ】 四宮 真澄

【パンヲカタル 】 浅香 正和

【つむぎ】 田川 恵子

【古本屋ワールドエンズガーデン 】 小沢 悠介

【読読】 なかがわ

【POTEN PRODUCTS】 森田ヨシタカ

 絵描き kaoru

【書肆スウィートヒアアフター】 宮崎 勝歓

【Satellite】 桑田 奈美枝

 若輩者

【homehome】 うめのたかし

【四々三結社】 蜆不水

 みやした けい

【町家古本はんのき】 仮

 葵美澄

【Amleteron】 アマヤ フミヨ

【ひるねこBOOKS】 小張 隆

【古書サンカクヤマ】 粟生田 由布子

【 nashinoki 】 前田 雅彦

【天牛書店】 天牛 美矢子

【葉ね文庫】 池上 規公子

 佐藤 司

【サロン ことたりぬ】 胡乱な人

 加間衣記 kama iki

 郁

【編集者・ライター】 石川 歩

 【文章スタイリスト】 武田 みはる

【イラストレーター】 福岡麻利子

 美夏

【立命館大学】 立命PENクラブ

 たまの

【心斎橋アセンス】 磯上竜也

 Takahiro Sawamura

 保田穂

【詩人】 素潜り旬

【個人】 前田ヨウイチ

 夏美

 たかぎ

 おとなの絵本プロジェクト

 かづさ

 まみ