昔読まれていた名著が、復刻して、文庫で新刊されたらしいよ、
なんてことを聞いてしまうと、ついうっかり手が伸びるのでやめていただきたい。
本屋さんで、平積みではありながら、そこまで激しく主張されていない本だったけれど
なんだか気になってしまって、
その日は悩んで買わずに帰ってきたのだけれど
やっぱり気になってしまって、
無事、翌日購入して半日で読み切ったのが「桜子は帰ってきたか」。
舞台は第二次世界大戦直後の満州。
親切な日本人夫婦に1年半大事に匿われてきた朝鮮人青年を中心に
ソ連軍の目につかないよう必死で祖国へ帰国する日本人女性たちや、その周辺の人々の運命を
時代を何度も飛び越えたサスペンス調で描かれている。
サスペンス、ミステリという分類に終始すると
「犯人が誰なのか最後までわからない!ハラハラする!」というイメージが強いが
この作品の醍醐味は先が読めないことだけではない。
(むしろ、先がまったく読めないように描かれてはいないのが面白い)
歴史ものとして、プラトニックな恋愛ものとして、主人公クレに教わる道徳ものとして、
様々な方面から読ませてくれる作品だからこそ、読み終えた後に一言で感想を言うなんて、
とてもじゃないけどできる自信がない。
だから昨日はとりあえず、
本の趣味が合う友人に「是非!」というメッセージだけ送信して、寝た。
小説にはたくさんの賞があるけれど、
こちらは1983年に第1回サントリーミステリー大賞の読者賞を受賞した作品らしい。
大賞ではなくて読者賞だったのも、一概に「良質ミステリ」として括れるものでもなく
読者からの抑えきれない「是非!」なのではと、勝手に推測して、納得している。
発掘されてからまだ間もなく、話題になりきってない本で、今は亡きサントリーミステリー大賞の初代受賞作だなんて、
そういうところがなんだか私のミーハー心をくすぐるし、
「是非!」と言って色んな人に無理やり読ませたくなるのでやめていただきたい。