つぶやかなければよかったのに日記5
 クボタ カナ

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2017-01-17 17:26:12

12月○日

スニーカーを新調する。もう何足目かわからない黒のジャックパーセル。次もその次も、これを買う。USAので生成色みたいな白があって、それも欲しかったが、サイズがなかったのでまた今度。春先に履いたらよさそう。帰り道、本屋による。雑誌の表紙やイベントのフライヤーにあふれる、スイーツ、カフェ、マルシェの文字。甘いもん、喫茶、市、と言っていきたいとしずかに強くおもう。真夜中までかかって「ハイペリオン」を読み終える。なんと壮大な序章なのだ!ものがたりは始まったばかりではないか!早よ、早よ「ハイペリオンの没落」が読みたい!けど、こないだ丸善に行ったときはなかった。「エンディミオン」はあったのに…?ふと、嫌な予感がして検索してみると、品切みたい。なんと!なんということだ…こんな、こんなひどいことがあるか。下巻裏表紙のあらすじに「壮大なる未来叙事詩、ここに開幕!」って書いてあるのに…鬼や、ハヤカワさん、あんた鬼や…!しかたなくamazonで古本を注文する。

 

12月□日

きょうはレッスンの日。鞄がみしっと重い。こないだ持ち手をミシンで補強してもらった。高校生のときとか、よくあんな重い鞄で遊び歩いてたなとおもう。はじめて歌の伴奏をみてもらって、こんなにたのしいものかと衝撃を受ける。先生の歌声で弾くの、たのしい。贅沢。帰りの電車で、いろいろなひとの演奏を聞きながら楽譜を読む。おもしろい。YouTubeは便利やなァ。夜、「ハイペリオンの没落」読了。すごいものを読んでしまった。圧倒的なおもしろさだ。こんなにおもしろい物語を読んだのは久しぶり。クライマックスのひとつ、涙出た。あれは、ずるい。細かいところで、よくわからないところがあるのでぱらぱらと読み返す。どうなったんやろうか。ナウシカじゃないけど、語り残したことは多いがひとまず筆を擱く、というかんじ?気になるので「エンディミオン」も読むことにする。しかし、こんなにおもしろい本を、発売されてから10年以上知らんかったんやなァ。読めてよかった。余韻に浸っているような時間ではないが、眠れない。

 

12月☆日

梅田が苦手すぎて、修理に出してひと月くらい預かってもらったままの靴を取りに行く。今年のことは今年のうちに、の気分になりはじめている。百貨店によって、デメルのチョコレートを買う。クリスマスまでにすこしずつ食べよう。お歳暮というほどでもなくちょっとしたクリスマスプレゼントといった感じの贈り物をしようとおもって、あれこれ迷う。ふと思い立ってするプレゼントはわくわくする。たのしみにしていたジャック・ヴァンス・トレジャリーの新刊「天界の眼 切れ者キューゲルの冒険」、おもしろかった。マグナス・リドルフのときもおもったけど、ヴァンスはいけずやなァ。最後、笑った。「巡礼たち」がすきかな。あと「ばぁっ」という訳語も。今年シネマ歌舞伎で観た「阿弖流為」(超絶おもしろかった、ひっくりかえるくらい)みたいな歌舞伎にしたらおもしろいんじゃないかと突然おもいつく。いや、これ、よさそうよ。

 

12月●日

日曜日、晴れ。澄みきった冬の空。加藤登紀子の歌う「暗い日曜日」をかけてお店を開ける。いい天気の日には、暗い歌も似合う。クリスマスまでに読んでおこうとおもってマージェリー・アリンガムの中短篇集「クリスマスの朝に」を持ってきた。「六月の夕べの六時半に息を呑むほど美しくなければ、英国のカントリーハウスと呼ぶに値しないが…」の一節で、途端に吉田健一が読みたくなる。中編「今は亡き豚野郎の事件」おもしろかった。「幽霊の死」とか「屍衣の流行」みたいな不穏な感じもいいんやけど、初期の冒険ものとかこういうユーモアたっぷりな作品、すきだ。ラッグが出てくると俄然おもしろくなる。アリンガムはラストシーンがよい。印象的なものが多い気がする。帰宅後、一息ついて、熱々の珈琲を淹れる。こないだ買ったチョコレートを開けることにする。猫の舌。昼間に届いていた「はぐちさん」の単行本をゆっくり読む。twitterで読むのもいいけど、やっぱり紙がいいなァ。ほっこり。私もだれかのはぐちさんになりたい。

 

12月◆日

「エンディミオンの覚醒」読了。ながいながい物語が終わった。「エンディミオン」を読みはじめたときに、「なんで、なんで世界はこんなことになってしもたんや!」と絶望しつつも、「こわい…悪がこわい…でもやめられへん!」とずんずん読み進め、最後の「エンディミオンの覚醒」上下巻、各700頁超まであっという間に読んでしまった。ハー。胸いっぱいおなかいっぱい。すばらしいエンタテイメント体験でした。長いなぁとおもったけど、その長さもよかった。この満足感は他にない。ハイペリオンシリーズ、表紙の絵もいいとおもう。昔ながらのSFを感じる劇画調。さいこう。昨今のなんでもかんでもおんなじようなイラスト、心底うんざりしてますので。こんなおもしろいの読んでしまって、次はいったい何を読んだらいいんやろう。ちょっと途方に暮れる。

 

12月★日

そろそろお正月の準備。年賀状、投函。本棚からはみ出た本も整理した。お餅も用意した。今年は棒鱈を炊くかどうか迷っていたが、みんなにあんまりすきじゃないと言われ、断念。あれがないと、正月をむかえる感じがしないので淋しくおもう。いつもの定番の食材や肴に加え、今年は、龍飛巻じゃなくて鮭を昆布で巻いて炊いた惣菜、なますじゃなくて柚子の香りゆたかななます風の漬物を買ってみる。気ままなお正月なので、すきなものをすきなように用意する。お雑煮の白味噌も忘れずに。お正月の準備はたのしい。今年の新刊、買ったまま読んでいなかった「アンデッド・ガール・マーダー・ファルス2」を読む。おもしろすぎた。1巻もおもしろかったけど、それを軽々と飛び越えてさらにおもしろい。19世紀末的サブカルチャー総復習といった感じの登場人物が繰り広げる頭脳(戦闘)エンタテイメント。さいこう。もう一回、1巻から読み返そう。今年も寝正月して、きままにミステリ読んで過ごす。至福。

 

【おまけ】2016年読んでおもしろかった本

第1位

「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」

ダン・シモンズ著/酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫SF

※これは、2作セットで1位にします。

 

第2位

「ブライヅヘッドふたたび」

イーヴリン・ウォー著/吉田健一訳 ちくま文庫

 

第3位

「国会議事堂の死体」 世界探偵小説全集35 国書刊行会

スタンリー・ハイランド著/小林晋訳

 

既刊ばかりになってしまいました。来年はもう少し新刊を読もうと思います。

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クボタ カナ


英国のクラシック・ミステリをこよなく愛する、ナガシの書店員。

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