初めに申し上げたいことがある。まずは、装丁がおめでた過ぎるということ。
次に「ばかのたば」というポップなタイトルの策略に、まんまと手を伸ばしてしまったことへの言い訳。
続いて、「のし袋」の中に納まる紙幣のような「ばかのたば」が、如何ほど積み重ねられているのかと気になって仕方がないこと。
読み始める前からこれほどまでに、「わんさか」と想像させる本は珍しい。
この本は「わかぎえふ的人間観察」である。
人間観察とは自分勝手な尺度で、人を測定する行為に思える。
この本の登場人物は、著書の周りに存在するユニークすぎるロジックの持ち主たち。
一人ひとりが主役級と思えるほど、個性的なエピソードを身に纏っている。
みなさんは「口裂け女」の話をご存じだろうか。
小学生の頃、巷では耳元まで切れ上がった大きな口で、「私きれい?」と話しかけてくるという恐ろしい伝説がはびこった。
夕暮れ時に神社の前を自転車で駆け抜ける時ほど恐ろしいことはなかった記憶がある。
何度も何度も振り返り、爆走した思い出が頭の中をよぎる。
しかし、この本に登場する「口裂け女」は一味違うのである。
彼女は、あまりにも面白い出来事に耐えられなくなり、笑った瞬間に口が裂けてしまったという強者である。
その他には、こんな強者も登場する。「大丈夫です」が口癖の劇団員の女性である。
彼女は周囲を巻き込むような迷惑な事件を次々と引き起こす。
ふすまは外れる。皿は割れる。そして、稽古場では自分の着物を踏んでひっくり返るなど。
ドジでありながら自覚症状の欠片さえ持ち合わせていないのである。
悪気のない、予測不能な暴れん坊たちの行動は、誰にも手が付けられないのである。
「ばかのたば」は、関西風の「お好み焼き定食」といったところであろうか。
ページをめくるたびに、登場人物という熱々のお好み焼きが、「わかぎえふという鉄板の上」で、次々に焼き上げられていく。
そして、「笑い」というソースやかつお節、青のりが惜しげもなくトッピングされていく。
しかし、それだけでは終わらないのである。
さらにたたみかける様に、ボリューム満点の「てんこ盛りごはん」のような登場人物たちがずっしりと盛られていく。
まさにこの本のメニューに並ぶのは、「炭水化物」のオンパレードだといえる。
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「パンに合う一冊」 わかぎえふ著 「ばかのたば」 熟成する一冊~料理仕立てのパン~より転載