本年度直木賞の恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」。
年末に購入した時点では直木賞にノミネートされているのさえ知らず、装丁のうつくしさに惹かれて購入した本作品。
総507ページの大作で、ページ割は文章が上下2段に分かれているめずらしいタイプ。
初めての恩田作品は、文章がとてもスッキリしていて読みやすかった。
物語は王道のストーリー展開。
ある国内の国際ピアノコンクールを舞台に、そのコンクールに参加する男女4人のピアニストたちの成長と、音楽を通して彼らに関わる人たちの交歓を描いている。
地球の自転軸のように、まわりのコンテスタントに影響を与え続ける、何事にも自由な天才肌の少年。
常識ある人格を基調に、確固たる技術と音楽性で聴く人々を魅了する青年。
過去に天才と言われ、ある事情でピアノの世界に背を向けた少女。
社会人として就職し家族をもちながら、ピアニストの道に未来を見つけようとする男性。
1次予選から本選までの長くも短い演奏の日々。
それぞれのピアニストが奏でる演奏の中に、人びとは草原を見、大地を感じ、空を見上げる。
そこにあるのは、あざやかな色彩に彩られた世界。
わたしはていねいに書き込まれた、作中の数々の楽曲を知らない。
恩田さんの筆は、読者であるわたしたちにその楽曲の音を感じさせ、あざやかな色彩を創造させる。
わたしは何度か、作品中の音楽を聴く聴衆と一体になった錯覚を味わった。
どんな世界でも、その道を極めようとすることは過酷だ。
でも彼らは知っている。
「神は細部に宿る」ことを。
ピアニストのまわりの人たちの驚きや喜び。
音楽とは、かくもうつしくやさしい。
蜜蜂と暮らす自由な少年は気づく。
世界は音楽に溢れている。
蜜蜂の羽音は、いのちの祝福のメロディ。
遠雷は、少女が幼いころ聴いた天駆ける馬のギャロップ。
わたしの心象世界に描かれた、わたしの「蜜蜂と遠雷」。
そして彼らは歩きだす。
音楽の祝福をその手で紡き、解き放つために。
惜しむらくは、ほとんどの登場人物の質感が想像できたのに対し、コンテスタントに影響を与え続ける少年の質感が若干弱かったことだろう。
しかしそれらを差し引いても、この物語はすばらしい。
装丁に描かれているすべての色彩は、作品の中にある。
ぜひ、色彩あふれる世界に魅了されてください♪
『蜜蜂と遠雷』 恩田陸著 / 幻冬舎 / 1,800円(税別)