どうしようもないけれどチャーミングで、人間くさい大人たちの話
【編集者・ライター】 石川 歩

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2017-02-12 23:12:01

この本から学ぶことは特にない、とおもう。

まあ、学ぶものはなくても、何かを感じて、なんとなくずっと心に残ってる、

そういう感情を味わえるのも読書の良いところだとおもう。

 

タイトルのとおり、

誰もが振り返るくらいにきれいな妻がいるのに、浮気をし続けるバイオリン奏者の惣介。

惣介の浮気に気がついているのに、嫉妬をしない妻の園子。

彼女が嫉妬をしないのは、諦めているのでも辛抱強いのでも強がりでもなく、

惣介がどれだけ園子を愛しているのかを知っているから。

で、園子は夫から愛されてしかるべき自分の美しさを認識している。

その認識をたしかなものにしているのは、惣介が園子に伝える美しさへの手放しの賞賛。

園子は、自分にとって必要な一人の男性から美しいと賞賛されるなら、

それ以外の男性からの賞賛は要らないと思っている。

 

この本は、惣介と園子と次々に変わる惣介の浮気相手の、それぞれの感情を中心に展開している。

読者は、いろんな登場人物の気持ちを俯瞰して読むわけだけれど、

一言で言うなら、どうしようもないけれどチャーミングで、人間くさい大人たちの話だった。

 

人は効率の良い方向にばかりになんていけないし、

欲望を抑えられない、どうしようもないもの。

恋愛は特に、このどうしようもなさが出ちゃうからおもしろいねって、

この本に言われているみたいに感じる。

 

終わりかたは、

いろんなことを曖昧にしたままほったらかしても、

人ってなんとなく前進していくものだよなあって思えて、

私はけっこう好きでした。

 

井上荒野『誰よりも美しい妻』(新潮文庫・2009年)

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【編集者・ライター】石川 歩


暮らし・不動産・建築関係の編集者・ライターです。 本と料理とモータースポーツが好き。 よく鼻歌を歌っているねって言われます。 http://www.doyoubi.info/

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