この本から学ぶことは特にない、とおもう。
まあ、学ぶものはなくても、何かを感じて、なんとなくずっと心に残ってる、
そういう感情を味わえるのも読書の良いところだとおもう。
タイトルのとおり、
誰もが振り返るくらいにきれいな妻がいるのに、浮気をし続けるバイオリン奏者の惣介。
惣介の浮気に気がついているのに、嫉妬をしない妻の園子。
彼女が嫉妬をしないのは、諦めているのでも辛抱強いのでも強がりでもなく、
惣介がどれだけ園子を愛しているのかを知っているから。
で、園子は夫から愛されてしかるべき自分の美しさを認識している。
その認識をたしかなものにしているのは、惣介が園子に伝える美しさへの手放しの賞賛。
園子は、自分にとって必要な一人の男性から美しいと賞賛されるなら、
それ以外の男性からの賞賛は要らないと思っている。
この本は、惣介と園子と次々に変わる惣介の浮気相手の、それぞれの感情を中心に展開している。
読者は、いろんな登場人物の気持ちを俯瞰して読むわけだけれど、
一言で言うなら、どうしようもないけれどチャーミングで、人間くさい大人たちの話だった。
人は効率の良い方向にばかりになんていけないし、
欲望を抑えられない、どうしようもないもの。
恋愛は特に、このどうしようもなさが出ちゃうからおもしろいねって、
この本に言われているみたいに感じる。
終わりかたは、
いろんなことを曖昧にしたままほったらかしても、
人ってなんとなく前進していくものだよなあって思えて、
私はけっこう好きでした。
井上荒野『誰よりも美しい妻』(新潮文庫・2009年)