小説 かもめのジョナサン
著 者:リチャード・バック
出版社:新潮社
私にとって読書は、“共感”や“連想”を実感することで至福を感じるものなのですが、「かもめのジョナサン」はそうしたものを得られる数少ない作品です。
この作品のキーワードとして、
“生”
“飛行(=自己対話)”
“自由”
“愛”
が挙げられます。一見すると自己啓発本か何かのように思われるかもしれませんが、この作品はジョナサンという一匹のかもめが主人公の“物語”です。
「かもめのジョナサン」のストーリー構成は3部構成になっています。
Part 1では、かもめにとって生きる手段でしかなかった“飛ぶ”ことをジョナサンにとっては“完全なる自由”を会得する手段であることが描かれています。ある日、ジョナサンは飛行の鍛錬において“限界突破”を果たし、自由の存在を実感します。しかし、飛ぶことは生きる手段でしかない“群れ”にとってジョナサンは異端でしかなく、群れから追放されます。そこからジョナサンは孤独の旅に出てさらなる飛行の鍛錬を積む過程で二羽の白く輝くかもめと出会い、“新たな世界”へと導かれます。
Part 2では、新たな世界に訪れたジョナサンが“完全なる自由”の意味を“理解”する場面が描かれています。ジョナサンは新たなる世界で、12匹のかもめとチャンという1匹の長老かもめと出会います。彼らと飛ぶことを通して親交を深めていき、ジョナサンはそこで“自由”や“天国”に対し疑問を持ち自問自答の日々送ります。中でもチャンとの会話は大変魅力的で共感を覚える場面が沢山あり、読み応えがあります。
Part 3では、飛ぶことで学んだことを群れに伝えるため、ジョナサンが群れの元に帰る場面が描かれています。
この物語の一連を通して連想されることがあります。
それはイエスが生きた時代とその人生。
イエスはかつて、天国は天上のどこかにあるのではなく、人の心の中にあるということを知覚し、声高らかに宣言しました。一部のユダヤ権力者によって“他律的な支配”がなされていた当時、イエスの主張は彼らが敷く法に対するアンチテーゼでした。つまり、イエスは自律的立法の可能性と尊さを説いた“異端児”だったのです。
ジョナサンが学び、群れに伝えたことも正しくイエスのそれだと私は感じました。イエスにとっての祈りはジョナサンにとっての飛行、こうした連想が得られるのもこの物語の醍醐味じゃないでしょうか?(ちなみに私はキリシタンではありません)
このように書くと、何か大袈裟に感じられるかもしれませんが、この物語の主題になっていることは理性を有する人間にとって身近にありふれたもので、何も大袈裟なものではありません。文庫サイズでたった100ページの物語でこれだけの共感と連想が得られるのですから、“面白い物語”として自信を持ってお勧めします。
この物語を読み、ジョナサンのように日々自問自答を繰り返せば、あなたも時間や空間に縛られることなく“完全な自由”とそこにある“愛”の存在を知ることができるかもしれません。
※先日行われたリーダーズ・ネストのもっとも読みたい本に選ばれた、リチャード・バック「かもめのジョナサン」のおすすめコメントを、Tさんにいただきました。ぜひご一読ください。