社会 その他 アルジェリア人質事件の深層
¥ 2,160 (税込)
著 者:桃井 治郎
出版社:新評論
2013年1月16日、アルジェリア、イナメナスのガスプラントが武装集団に襲撃され、何十人もの外国人スタッフが人質として拘束された。三日間の攻防の末、アルジェリア軍は掃討作戦を敢行、武装集団の壊滅(29名死亡、3名拘束)に成功するも、人質のうち、日本人10人を含む10ヵ国40人が犠牲となった。
ぼくは、この事件が、「ジャスミン革命」から「イスラム国」へと至る中東―北アフリカの出来事の連鎖の中で、特に重要な事件の一つだと思った。だが、事件直後こそ衝撃とテロへの怒りに満ちた報道で溢れていたものの、詳しい続報や検証は続かなかった。約二年後に刊行された本書は、待望久しいものである。
事件の真相―深層を知るには、正確で詳細な経緯とともにその背景を知り、事件を時空間座標の中で位置づけることが必要である。著者は、アルジェリア内外の新聞報道から事件を時系列で整理し、アルジェリア政府並びに日本を含む諸外国の対応を検証した上で、オスマン帝国領時代からフランス植民地、独立、軍事独裁、内戦を経て現在に至るアルジェリア近現代史を俯瞰し、石油、天然ガス資源に依存するアルジェリアの経済状況とグローバル・テロリズムが交差する「今」に、この事件を定位していく。
最も望むらくは、事件の再発の防止であろう。そのために著者が参照するのが、あらゆる暴力の正当化=「正義」化を拒否するアルベール・カミュの「反抗」の思想である。ぼくは、大いに共感する。
何より重要なのは、「テロ」を発生させる環境を、テロリズムを生むあらゆる暴力主義を、なくしていくことである。それこそ真の「テロとの戦い」なのだ。